‥‥‥‥‥‥‥tamago1
それは、良く晴れた日の、邂逅。 奇蹟の、とある者たちは、祝福を贈り。 最悪の、とある者たちを、絶望させた。
闇の目覚め〜天の卵〜
その森は、あまりに深かった。 深いと呼ぶよりは、無限。 果てがない。 果てを見た者が居ない。 ましてや、その森は、禁足地。 力有る者たちが、入り口を封じ、昔語りで戒める。 彼の地には、王が眠る。 闇の君。 闇の王。 目覚めれば、なにが起こるか分からぬ、強大な力を持つ者が。 平安を尊ぶならば、立ち入るな。 力を求めるなら、死を賜ると思え。 その言葉は、幼い頃より言い聞かされ、骨身に染み、立ち入る者は滅多に居ない。たとえ立ち入ろうとしても、入り口の封じは強固で、それを越えたとしても、森は迷宮。最奥にある王の眠る城に、たどり着くのは困難である。
が、何事にも例外というものは存在した。
そして、闇の君とやらが眠りに就いてから、どれほどの年月が経ったのか数えることも馬鹿らしくなった、ある日。森の入り口に、ちんまりとした人影が立った。成人どころか、卵から孵ったばかりなのでは、という小さな生き物の背には、やはり小さな、可愛らしい二枚の白い翼が生えていた。 無理である。 絶対に無理である。 入り口にたどり着くことすら、無理であろう。 だが、それは、ごそごそと胸元から、まあるい玉(ぎょく)のペンダントを取り出して、掲げた。そして、姿形に似合う、幼い舌足らずな愛らしい声で、ねだった。 「あけて〜」 待て、とその場に誰かが居たら、突っ込みを入れただろう。 そんなんで開いてたまるか、と。 だが、入り口の中でも、最も難易度が高く、過去、ただの一度も開いたことがない正門は‥‥‥‥‥‥。
ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ‥‥‥。
と、あっけなく、開いた。 そして、小さな愛らしい天使は、ぱたぱたと翼を羽ばたかせ、中に入ってしまった。‥‥‥入ってしまったのである。
※
彼は、ふと、目を覚ました。 正式な訪問者が訪れた、と認識する。 またしてもくだらない諍いが起きたのか。 あるいは、封印凍土に眠らせた魔物を、誰かが起こしたのか。 どちらにせよ厄介ごとに違いない。 外が彼を必要とする時は、そういった時以外にはなく、また、彼も、自らの責務以上に外と関わりたいとは思わなかった。 しかし、しばらく待ったが、訪問者は訪れない。 正門を使った以上は火急の用件であろうに、と眉をしかめた。 そして、意識を、拡散する。 森は彼の領地。 隅々までもが彼の管理下にある。 異物は、すぐに、見付かった。
『おにゃかすいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
それは、えぐえぐと泣きながら、森の中をさまよっていた。 彼は、絶句した。 絶句することなど生まれて初めてだったかもしれない。だが、それは、あまりに、あり得ない光景だった。
『ねえねえ、ご飯、どっかない?』
彼は、思わず、その生き物を罵った。 小さな生き物が話しかけたのは、この森の番人。 容赦なく異物を排除するべく条件付けられた、冷酷な獣だ。 餌になるのはおまえだ馬鹿者、と罵りながら、彼は身を起こした。 そして、三百年振りに、城の外へと出向く羽目に陥ったのである。
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