‥‥‥‥‥‥‥third -6
※
消えてしまった明かりが、戻って来ていた。
そこに。 そこに。 そこに。 近くに。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ああ、こんな所に居たんだね。
いままで、どこに居たんだい? 探していたんだよ? さあ、おいで。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥オイデ。
最高の悦楽を、君に教えてあげる。 だから、僕を照らして。 だから、僕を温めて。 その明かりで。 その柔らかな肌で。
あの闇ではなく。 僕を、愛して。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ボクダケヲ。
※
都内に戻った滝川たちは、ナルの指示によって、麻衣のアパートにやって来ていた。ただし、ジョンは別行動だ。彼には、彼にしかできない役目がある。 ナルが合い鍵で扉を開けると、滝川はものすごくなにか言いたそうな顔をしたが、なにも言わなかった。そんな場合ではない。
「‥‥‥‥‥‥へ?」
室内に足を踏み入れた途端、滝川は目を剥いた。 足場もないほど散らかっていた、というわけではない。室内には、なにもなかったのだ。 「荷物は業者に頼んで運び出してある。邪魔だからな」 勿論、麻衣は知らない。 「‥‥‥‥‥‥用意のよろしいことで」 「リン、始めてくれ」 滝川の皮肉を軽く受け流して、ナルはリンを見やる。 「‥‥‥‥‥‥無視すんなよな‥‥‥」 「ぼーさん、やる気がないなら帰れ」 「やる気はある。可愛い可愛い娘の為だ」 きっぱり言い切るおとーさんは、可愛い娘を浚っていった青年に、鋭い眼差しを向ける。いつもとはまったく違う、真剣な眼差しだ。 「‥‥‥‥‥‥粗末に扱ったら、赦さないからな」 なにを、と問うほどナルは馬鹿ではない。 「心得ておこう。‥‥‥‥‥‥リン」 リンは軽くうなづいて、懐からヒトガタを取り出した。
そして、暗がりに、闇に、明かりが灯る。 麻衣、という名の明かりが。
※
室内の気温が、下がる。 急激に、唐突に。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥奴が、来る。
明かりを求めて、温もりを求めて。 麻衣を隠したことによって、奴は焦っている。罠と疑うこともできないほどに怒り狂っている、とナルは知っていた。 今回、調査中でもないのに目覚めたジーンは、いつになく行動的で、役に立っている。警告は勿論、麻衣の夢を封じ、奴との回線を断ち切り、さらには奴の状況を逐一ナルに報告しつづけた。そして、いまも、ナルとジーンの回線は胸元の鏡で繋がっている。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥ナル』 胸元の鏡から、僅かに強ばった声が響く。 『‥‥‥‥‥‥なんだ?』 『あのさ‥‥‥すごく言いにくいんだけど、これが終わったら、早く帰ろうね。だから、まあ、無傷で終わらせよう、ということなんだけど‥‥‥』 『‥‥‥‥‥‥なにかあったのか?』 『ううん‥‥‥あったようなないような。とりあえず危険はないんだけど‥‥‥』 歯切れが悪い。 ナルは眉間に皺を寄せた。 『とりあえず、あと。あとにしよう。‥‥‥うん、そうしよう』 勝手に結論付けて、ジーンは、微かに笑ったようだ。 『‥‥‥‥‥‥心配?』 『集中しろ。来るぞ』 『‥‥‥‥‥‥うん』
室内の明かりが、明滅を繰り返す。 叩くような音が、響き渡る。 そして、風が。 窓を開けていないのに、冷たい風が吹き荒れた。 |
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