‥‥‥‥‥‥‥third -2

 

 過疎化が進んだ村には、人が少ない。

 さらに、麻衣たちが調査を依頼された場所が、村の外れにある廃校なので、本当に誰にも会わない。村には、コンビニなどという便利なものは勿論、スーパーもない。雑貨店すらなく、農協と郵便局の隣りに、ちまっ、と併設された売場が唯一買い出しできる場所だった。ついでに麓までは車で二時間。‥‥‥‥‥‥不便極まりない。

 だが、こういう所に来ると一番文句を言う綾子は、ご機嫌だった。

 村の奥にある神社の境内に、生きた木があったらしい。

「これだけ立派なご神木はなかなかないわよ」

 つまり、今回は、綾子がかなり当てになるということだ。それは、いいことだ。だが、今回は果たして、それが必要になるかどうか。

「なーんで、引き受けたのかな?」

 廃校内で、安原と滝川と共に機材を設置しながら、麻衣はぼやいた。

 廃校、と聞いて‥‥‥実はかなり覚悟していた。過去、痛い目にあったことは忘れていない。それは他のメンバーも一緒で、なんだかんだと用意していた。いつもより気合い入りまくりで、準備に余念がない。

「ねえ、安原さん、なんでこの依頼受けたのか知ってる?」

「現象が珍しいからじゃないですか?」

「でも、なあ‥‥‥」

「なにか感じますか?‥‥‥はっ、まさか、あの時の二の舞とかっっ」

「おいおい、勘弁してくれよ」

 大げさにひく安原と、嫌そうに顔をしかめる滝川に、麻衣は苦笑した。

「‥‥‥‥‥‥その反対。ここ、ううん、この村かな。すごく、綺麗なの。穏やか過ぎて‥‥‥‥‥‥溶けてしまいそうな感じ?」

「ああ、それ、分かります。標高が高いせいか空気も綺麗ですし、天気が良いと、ぽかぽか暖かくて、猫になりそうです」

「そーだな。確かに、悪い感じはしないな」

「でしょ?しかも、なんか‥‥‥反応ないし‥‥‥平和すぎて、ナルが恐い」

「‥‥‥‥‥‥ご機嫌斜めですよね」

「最悪だよな‥‥‥‥‥‥」

 三人は揃って吐息を吐き出す。

「‥‥‥‥‥‥一日ごとに悪くなっていくよね」

「‥‥‥‥‥‥早く、動きがあるといいんですけどね。それに、一度は見てみたいじゃないですか」

「‥‥‥そうだね、どんなんだろう。凄く綺麗だって話だけど‥‥‥」

 

 依頼人は、この村の村長‥‥‥の息子だった。最初出会った時の麻衣の第一印象は、熊みたいな人、という失礼極まりないものだった。しかも名前が、熊田太一。‥‥‥‥‥‥自己紹介された時、どう反応して良いのか、迷った。

 最も、熊田は気の良い好青年で、ぴったりな名前でしょう、と笑っていたが。

 彼の依頼は、廃校になった校舎になにかが居る、という実にありきたりなものだった。廃校になった理由は、隣り村にある小学校との合併で、本当に事件とか事故とかがあったわけではない。(この辺りはしつこく調べたので間違いありません、とは安原談)

 なにか、とは具体的に言うと‥‥‥分からない。

 子供の笑い声が聞こえた、人影が見えた、校庭で揺らめく炎が見えた、とともかく色々である。その中でも、特に変わっていたのは、

 

 真夜中の、花火。

 しかも、虹色。

 

 とてもとても綺麗だと、青年は教えてくれた。

 害があるわけでもないし、そのままでもいいんですが、と苦笑していた。

 よくよく聞けば、放置しつづけて三年になるらしい。放置しておけなくなったのは、村興しの一環として、みやげ物を作る木彫り工場として使用することが決定したからである。 

 どう聞いても危険性は薄い。だが、現象としては確かに珍しい。だから、ここに来たというのに‥‥‥‥‥‥。

 頻繁に現れていたらしい人影はもちろん、虹色の花火も、校庭の炎も、まったく姿を現さない。もう、三日になる。

 日が過ぎるごとにナルの機嫌は、悪くなっていく。はっきりいって、側に寄りたくない。

 

(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥おいで‥‥‥‥‥‥)

 

 不意に、麻衣は、動きを止めた。

「‥‥‥‥‥‥谷山さん?」

「麻衣?」

 麻衣は、無言のまま、窓硝子に視線を向ける。

「どうかしましたか?」

 安原と滝川の顔が僅かに強ばっていることに、麻衣は気付かない。

 いつもは強い意志を秘めて輝く鳶色の相貌が、揺らいで、閉じる。

 

(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥おいで‥‥‥‥‥‥)

 

 柔らかな、その声は、暖かさに満ちている。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥だあれ?」

 麻衣は、口元に笑みを浮かべて、甘えるような口調で尋ねた。そう、まるで、幼子のように。

「谷山さん!」

「麻衣!」

 安原と滝川は麻衣の腕を掴んで、叫ぶ。

 

「どうしました?」

「なんかあったの?」

 声を聞きつけて、あっと言う間に、皆が集まってくる。その中心で、麻衣は、目を瞬いた。必死な形相の周囲を見回して、首を傾げる。

 

「どーしたの?」

 

 あまりに暢気なその態度に、集まった面々が吐息を吐き出す。

 そこへ、怜悧な声が響いた。

「なにがあった?」

 麻衣は、目を瞬く。気のせいでなければ、なんだか、焦っているような気がするのだ。あの、ナルが。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 黙っていると、周囲の視線が痛い。

 突き刺さるようだ。

「‥‥‥‥‥‥あの、みんな、どーしたの?なんか変だよ?」

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