‥‥‥‥‥‥‥kd-7-2

 

 

     ※

 

 

「‥‥‥まさか、本当に、ナルが一緒に来るとは思わなかったわ」

 呟くまどかの眼前には、信じられない光景が広がっている。

 場所は、東京タワー内部。詳しくは、観光客がわさわさ居る望遠鏡の近くである。そして、望遠鏡の近くには、楽しそうなルエラとマーティンと麻衣。麻衣の横には‥‥‥‥‥‥冷気を漂わせるナルが立っている。

「麻衣が居れば、ナルに浴衣を着せることもできるし、東京タワーに連れて来ることもできるんだよ。凄いでしょ?」

「‥‥‥あなたにも有効みたいだけどね」

「あれは、反則だから、仕方ないよ」

「‥‥‥まあねぇ」

 確かに、あれは、反則だ。

 あの、花開くような満面の笑みを向けられて、全幅の信頼を寄せられて、よろめかない人間が居るだろうか。いや、居ない。絶対に、居ない。

 なにせ、あの、研究馬鹿で、朴念仁なナルが、陥落したのだ。

 恐るべき必殺技である。

 本人無自覚な辺りが、さらに凶悪だ。

「あーあ、いいなぁ。僕も、麻衣が欲しいなぁ」

「こらこら」

「もう一人麻衣が居たらいいのになぁ」

「こらこらこら」

「せめて、僕も一緒に行けたらいいのに‥‥‥」

 冗談に混じって、切ない願いが漏れる。

 まどかは、人なつこい振りをして、実は、ナルと変わらないぐらいに人の選り好みが激しい青年の背を叩く。

「新婚さんの邪魔してどうするのよ?」

「‥‥‥新婚さん‥‥‥」

「あら、違うの?似たようなものじゃない?」

「‥‥‥新婚さん‥‥‥」

「ロマンチックよねぇ。お互いが居なければ、生きていけない‥‥‥揃って居れば永遠に生きられるなんて‥‥‥」

 うっとり、と夢見る乙女の隣りで、ジーンは未練たっぷりな視線を、無防備に笑顔を振りまく少女に向けていた。

 

 

     ※

 

 

 東京観光巡りお任せツアーが、無事、終了したのは、午後八時。

 美味しいと評判の日本料理店が終点であった。

 

「楽しかったわねぇ」

「ええ、とても」

 和やかに微笑むまどかとルエラの横では、マーティンとジーンが苦笑を浮かべ会う。お任せツアーの後半は、松崎綾子オススメ店でのお買い物ツアーだった。

 さすがにそこまで付き合わせると後が怖いナルは、麻衣と書籍と一緒に、喫茶店で待たせて、マーティンとジーンが荷物係を引き受けた。

 途中で気が済むまで読書できた為か、ナルの機嫌はそこそこ悪いだけで済んでいる。これで終わり、と思っているせいもあるだろうが。

 が、それは、甘い。

(‥‥‥実は、明日も明後日も‥‥‥あるんだよねぇ)

 ジーンは心中でこっそりと笑みを浮かべる。

 ナルは嫌がるだろうが、拒絶権はない。

 もう二度と会えない場所へと旅立つ息子と、最後の思い出を作りたいと願うのは当然のことだし、叶えられて当然の願いである。

 

 

 

 かくして、東京観光巡りお任せツアーは、いつもの協力者たちも合流して、三日間繰り広げられた‥‥‥。

 

 

 

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