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「‥‥‥まさか、本当に、ナルが一緒に来るとは思わなかったわ」 呟くまどかの眼前には、信じられない光景が広がっている。 場所は、東京タワー内部。詳しくは、観光客がわさわさ居る望遠鏡の近くである。そして、望遠鏡の近くには、楽しそうなルエラとマーティンと麻衣。麻衣の横には‥‥‥‥‥‥冷気を漂わせるナルが立っている。 「麻衣が居れば、ナルに浴衣を着せることもできるし、東京タワーに連れて来ることもできるんだよ。凄いでしょ?」 「‥‥‥あなたにも有効みたいだけどね」 「あれは、反則だから、仕方ないよ」 「‥‥‥まあねぇ」 確かに、あれは、反則だ。 あの、花開くような満面の笑みを向けられて、全幅の信頼を寄せられて、よろめかない人間が居るだろうか。いや、居ない。絶対に、居ない。 なにせ、あの、研究馬鹿で、朴念仁なナルが、陥落したのだ。 恐るべき必殺技である。 本人無自覚な辺りが、さらに凶悪だ。 「あーあ、いいなぁ。僕も、麻衣が欲しいなぁ」 「こらこら」 「もう一人麻衣が居たらいいのになぁ」 「こらこらこら」 「せめて、僕も一緒に行けたらいいのに‥‥‥」 冗談に混じって、切ない願いが漏れる。 まどかは、人なつこい振りをして、実は、ナルと変わらないぐらいに人の選り好みが激しい青年の背を叩く。 「新婚さんの邪魔してどうするのよ?」 「‥‥‥新婚さん‥‥‥」 「あら、違うの?似たようなものじゃない?」 「‥‥‥新婚さん‥‥‥」 「ロマンチックよねぇ。お互いが居なければ、生きていけない‥‥‥揃って居れば永遠に生きられるなんて‥‥‥」 うっとり、と夢見る乙女の隣りで、ジーンは未練たっぷりな視線を、無防備に笑顔を振りまく少女に向けていた。
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東京観光巡りお任せツアーが、無事、終了したのは、午後八時。 美味しいと評判の日本料理店が終点であった。
「楽しかったわねぇ」 「ええ、とても」 和やかに微笑むまどかとルエラの横では、マーティンとジーンが苦笑を浮かべ会う。お任せツアーの後半は、松崎綾子オススメ店でのお買い物ツアーだった。 さすがにそこまで付き合わせると後が怖いナルは、麻衣と書籍と一緒に、喫茶店で待たせて、マーティンとジーンが荷物係を引き受けた。 途中で気が済むまで読書できた為か、ナルの機嫌はそこそこ悪いだけで済んでいる。これで終わり、と思っているせいもあるだろうが。 が、それは、甘い。 (‥‥‥実は、明日も明後日も‥‥‥あるんだよねぇ) ジーンは心中でこっそりと笑みを浮かべる。 ナルは嫌がるだろうが、拒絶権はない。 もう二度と会えない場所へと旅立つ息子と、最後の思い出を作りたいと願うのは当然のことだし、叶えられて当然の願いである。
かくして、東京観光巡りお任せツアーは、いつもの協力者たちも合流して、三日間繰り広げられた‥‥‥。
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