‥‥‥‥‥‥‥kd-7-1

 

 

 

 その日は、朝から、賑やかだった。

 ナルは、だから、とても、機嫌が悪くて、書斎に篭って出てこない。

 無理に引きずり出そうとしたジーンが、慌てて飛び出すほどに。

「‥‥‥やばかったよ。あやうく息の根を止められる所だった」

 冗談だと思うけれど、顔色が悪かった。

「仕方ないわね〜。ナルってば、ほんと、協調性がないんだから」

 けらけらと笑うのは、まどかさん。

 ナルとジーンの上司で、昔からの知り合いで、とても笑顔の綺麗な人。

 そして‥‥‥。

 

「仕方ないわよ、まどか。いきなりだったもの」

「そうそう。ナルはペースを崩されるのをなにより嫌うからね」

 

 ソファに座って、柔らかく微笑む人たちは、ナルとジーンのお父さんとお母さん。血は繋がっていないけどね、とジーンがこっそり教えてくれた。

 でもね、そんなこと関係ないんだよ、と嬉しそうに。

 

「まあ、ナルが、拒絶するのは分かり切っていたから、仕方ないわね。じゃ、ナルは留守番ね。私たちだけで行きましょう」

 どこに行くのか、麻衣は、知らない。

 ジーンは、知っているようだが、教えてくれなかった。

「‥‥‥‥‥‥」

 視線で問いかけると、綺麗な、綺麗な笑みが返ってくる。

 こういう笑みを浮かべた時のジーンは、要注意なのだと、麻衣は知っている。

 悪戯する時の顔だ。

 

 前は、仕事ばかりして休憩しないナルの紅茶に睡眠薬を入れた。

 その前は、なんだか良く分からない内に浴衣を着せられた。

 お祭りはとてもとても楽しかったけれど、隣のナルが怖かった。

 ‥‥‥‥‥‥浴衣はとても似合っていたけれど。

 でも、その時の写真があちこち出回っているのがナルにばれて、ジーンに連れられて、リンさんの所に逃げ込むことになった。

 ジーン曰く、私は、万が一の時の為の、保険、なのだそうだ。

 良く分からないけれど。

 

(‥‥‥今度はなにをするつもりなのかな?)

 

 不安はほんの少しあるけれど、怖くはない。

 だって、ジーンだから。

 

「大丈夫だよ」

 ジーンが頭を撫でてくれる。角の所には触れないように、優しく。

「うん。分かってるよ。だって、ジーンだから」

「‥‥‥」

 ジーンは、なぜか、動きを止めた。

「‥‥‥ジーン?」

「麻衣、それ、反則‥‥‥」

 なにが反則か良く分からなかったけれど、まどかさんはうんうん頷いていた。

 

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