‥‥‥‥‥‥‥kd-6-3

 

 

     ※

 

 

 彼と同じ顔をした青年が、狡い、と感じるのはこんな時。

 聞きたいことはたくさんあって、けれど、聞いて良いのか分からなくて。

 なのに、彼女は、なにもかも話してくれた。

 青年の一言に絶対の信頼を寄せて。

 

------------信じがたい真実すべてを。

 

 けれど、信じていないわけではない。

 なぜなら、分かってしまうから。

 どんな常識よりも信じなくてはいけない直感が、彼女は、私たちとは違う尊い生き物だと教えてくれる。

 内側から輝く、魂の色が、目に焼き付くほどに眩しい。陽の光のような、黄金が、美しい。

 

(‥‥‥ああ)

 

 この美しい光が、彼を囚えたのだと分かってしまう。

 諦めたくないのに、心が、絶望する。

 もうまもなく、二度と会えない場所へと旅立つ彼を、それでも、愛しく思ってしまう自分が、滑稽で、哀れで、情けない。

 だが、彼女を、恨むことはできなかった。

 彼をこの地より引き裂く彼女こそが、最も、傷ついていると分かってしまうから。どうしようもできない現実に、途方に暮れていると分かってしまうから。

 そして、罰を、叫びを、絶望を、なにもかも、受け入れる覚悟があると分かってしまうから、苛立ちをぶつけるようなことはできない。

 そんな不様な真似は晒せない。

 それが、私だと、あの青年は知っている。

 

『信用できる人だから』

 

 そして、なによりも、青年の言葉に、縛られてしまう。

 言葉にせずとも、大切な存在を、一時でも預けることを良しとした、彼からの信頼を、喪うことなどできるわけもない。

 

(‥やはり、あたくしは、あなたが嫌いですわ)

 

 天使のような微笑みを浮かべてなにもかも見すかす青年は、本当に、狡い。

 でも、今回だけは、その企みに荷担するしかないのが、悔しい。

 

 たとえ、私を選んでくれなくとも。

 彼が、幸せであるように、と望むから。

 

「‥‥‥あなたに後悔する権利なんてありませんわ。悔やむことも、恐れることも、ナルに失礼ですわ。あたくしが好きになった方は、成りゆきで、衝動で、同情で、すべてを捨てるほど愚かな方ではありません」

 

 俯いたまま、責める言葉をすべて受け入れようとする彼女は、とても小さく感じた。そう、本当に小さな、幼子に見える。ようやく与えられた僥倖に、震えて怯える子供に。

 

「あなたがするべきことは、ただ一つですわ」

 

 顔を上げて、縋るような色を浮かべた鳶色の眼差しを、見返して、私は、笑う。

 きっと、綺麗に、笑えたと思う。

 

「ナルから取り上げたすべての人の代わりに、彼を愛すること。ただ、それだけですわ」

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥kingdammenu    back   next