‥‥‥‥‥‥‥kd-6-2

 

 

「いらっしゃい、久しぶりだね〜」

 

 彼女を抱きしめたまま、彼と良く似た青年が笑みを浮かべた。

 誰もが彼を冷たいと言い、青年を優しいと言うけれど、真砂子は知っている。

 青年の微笑みは、壁。

 青年の微笑みは、威嚇。

 優しく受け入れる振りをして、品定めをする冷徹さが、そこにある。

 

「いきなりだけど、頼み事を聞いて貰える?」

「‥‥‥なんでしょう?」

「うちの可愛いお姫さんと、美味しいお茶を飲んで来て欲しいんだけど」

「‥‥‥‥‥‥」

 思わず眉をしかめると、より一層、青年の笑みが深くなる。

(‥‥‥なにを考えているのかしら)

 だが、笑顔の下に隠れている真意を見つけることは難しい。

「駄目、かな?」

「‥‥‥なぜ、あたくしが?」

「信用できる人だから。ちょっと、息抜きさせて欲しいんだ。その間に、僕、ナルと話したいことがあるし」

 二人の間で、勝手に身柄の取引をされている少女は、二人を見比べて、困り果てている。そして、ナルに、縋るような眼差しを向けるが‥‥‥。

「行って来い」

「‥‥‥あの、でも‥‥‥」

「ナルなんか気にしなくていいってば。はい、お財布。なにか欲しい物があったら、なんでも買っていいからね」

 可愛らしい金魚柄の巾着袋を麻衣に押しつけるように渡して、ジーンは、二人の少女を外へと放り出す。 

 

「いってらっしゃーい。気を付けてね〜」

 

 底抜けに明るい声に送り出された二人は、仕方なく、とぼとぼと歩き出した。

 

 

     ※

 

 

「‥‥‥‥‥‥いただきます」

 

 神妙な顔で、スプーンを握る少女の前には、山盛りのかき氷が鎮座している。

 美味しいお茶を、と頼まれた真砂子が少女を連れて来たのは、いきつけのお茶屋である。夏場は、変わったかき氷メニューがあり、土日は非常に混んでいるが、季節外れの上、平日の午後なので、かなり空いている。店内には、二人の他には、奥にもう一組居るだけだった。

 そして、真砂子が少女の為に頼んだのは、一番美味しいと評判の、生桃のかき氷である。

 

「‥‥‥‥‥‥美味しい」

 

 少女は、ふわり、と微笑んだ。

 花のように。

 

「すごくさらさらで、甘くて、美味しいです」

「‥‥‥わらび餅も、どうぞ」

「はい」

 

 少女と当たり障りのない会話を交わしながら、ふと、真砂子は気が付いた。

 

「‥‥‥そういえば、まだ、名乗っていませんでしたわね。あたくしは原真砂子と申します」

 少女は、動きを止めた。

 そして、ほんの僅か、首を傾げる。

 迷うように。

「‥‥‥谷山麻衣と申します」

 今度は真砂子が首を傾げる番だった。

 それは伝え聞いた名前と違っている。

「‥‥‥ケイリン、というお名前では?」

「それは、名前ではないので‥‥‥」

「名前ではない?」

「慶國の麒麟という意味です」

 目を瞬く真砂子を、鳶色の眼差しがまっすぐに見返した。

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