‥‥‥‥‥‥‥kd-fourth-2
なにを頑張るのだろうか。 疑問を頭の中にいっぱい詰め込んで、麻衣は隣を振り返る。 大切で大好きな人が、そこに居る。 ようやく探し出した唯一無二の主が。 (‥‥‥どうして?‥‥‥) 綺麗な綺麗な横顔からはなにも読みとれない。 (‥‥‥どうして会わせてくれたの?‥‥‥) いや、そもそも、ケイリンはなにも話さなかったはずだ。 なのに、いつのまにか、寿命のことも、なにもかも知っていた。 そして、手を差し伸べてくれる。 吐息を吐きながら。 不機嫌な顔をしながら。 いつだって‥‥‥。 (‥‥‥嫌われてないのかな?‥‥‥) いきなり押し掛けて、王になって欲しいと我侭を言った。 すべてを捨てて欲しい、と。 そんなことを言えば嫌われる、と分かっていたけれど、故郷の民を思えば頼まずには居られなかった。 「‥麻衣ちゃん、一つだけ聞いていいかしら?」 「はい」 柔らかな声で我に返ると、真剣な顔が目の前にあった。 「あなたは、いま、幸せ?」 「‥‥‥‥‥‥」 「私に遠慮しては駄目よ。本当のことを教えてね」 強い眼差しに射抜かれて、ケイリンは頷いた。 「‥‥‥幸せ、です」 「本当に?」 「‥‥‥はい」 しっかりと頷いたわが子を見て、女は安堵の吐息を吐き出した。 それが、最期の吐息だった。
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「‥‥‥可哀想に‥‥‥」 ジーンは、泣き疲れて寝入ってしまったケイリンの頬を撫でる。 ようやく母親と会えたのに、僅かな時間話しただけで、母親は逝ってしまった。 会えただけでも幸運だったと言うべきだろう。 ナルが、あとほんの少し動くのが遅ければ、会うことすらできなかったのだから。けれど、もう少し、もう少しだけ生きていて欲しかった。 (‥‥‥僕も会いたかったよ、君のお母さんに) そして伝えたかった。 あなたの娘はとてもとても良い子です、と。 人のことばかり気にして、自分ばかり責めて、生きていくことに酷く不器用だけど、とてもとても優しくて可愛いです‥‥‥。 そんな子が生き延びられないのは間違っている。 やはり、どう考えても、間違っている。 だが、では、どうしたら良いのか。 答えは出ない。ただ、静かな寝室に吐息がこぼれるだけだ。
あれから、ジーンたち一行は病院に長く足止めされた。 とりあえずジーンとケイリンはマンションに戻って来れたが、ナルとリンは事後処理の為に駆け回っていて、まだまだ戻って来れない‥‥‥らしい。 らしい、と言うのは、ジーンにも良く分からないからだ。 ただ、リンが一度だけ連絡してくれたので、死の直前会いに来た娘のことで、揉めているらしいことは分かっている。 要は、死んだ母親が遺した多額の遺産について、揉めているのだ。 ナルは即座に受け取りを拒否した。しかし彼女の財産の管理をしている弁護士はかなりの頑固者で、受け取れ、とわめいている。勿論、そのために、浚われたケイリンのことについても、きっちりするべきだ、と主張しているらしい。 それは不可能なことだ。 させてはならないことだ。 谷山麻衣が失った時間は、こちら側ではどうしても取り戻せない。 浚った者も、こちら側には居ない。 頑固そうな弁護士の顔を思い出して、ジーンは眉をひそめる。 説得するのは難しそうだ。 まあ、いざとなったら、職権乱用はできん、とわめく人を説得して頼むしかないだろう。どちらも頑固そうだから、会わせたら、意外と話が合うかもしれない。それとも同族嫌悪で毛嫌いしあうだろうか。 (‥‥‥ま、いいや‥‥‥) 難しいことはナルに任せておけば大丈夫だ。 毒舌で相手を憤死させなければ、なんとかなるだろう。 そんなことよりも問題は、ナルをどう説得するかだ。 (‥‥‥君は、嫌がるだろうけどね。僕は、君が死ぬのは嫌なんだ‥‥‥) しかもその亡骸を獣たちが喰らうなんて聞いたら、どうあっても邪魔するしかないだろう。それが片割れの逆鱗に触れようとも。 しかし、騙すにしても、説得するにしても、 (‥‥‥悪魔を騙す方が‥‥‥簡単な気がする)
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