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良く晴れた休日、ケイリンはいつものように家事を手伝っていた。 三ヶ月も手伝っていれば、手際も良くなる。熱心に勉強した甲斐があって、得意料理も増えた。 いまでは、時々、食事の準備をすべて任されることさえあった。 ただし、それは、ともかく忙しくて、同居人二人ともが、どうしても食事の準備をできない時に限られていたが‥‥‥。 「ケイリン、今日はなにが食べたい?」 ジーンは毎日、毎日、そう聞く。 最初の頃は、なんでも、と答えていたケイリンだが、 『‥‥‥じゃあ、血の滴る美味しいお肉にしようかな』 と、脅されてからは、なるべく好みを言うようにしている。 「‥‥‥ええと、あっさりしたのが、いいです」 「あっさりね。うん、分かった」 あっさりあっさり、と口ずさみながら、ジーンは料理本をめくる。 ケイリンと同居するようになってから、ジーンの休日には楽しい行事が一つ増えた。それは、手の込んだ新しい料理に挑戦することである。 一緒に作ることは、もちろん、楽しいし。 美味しい、と喜んでくれるからやりがいもある。
「----ケイリン」
が、本日は、珍しく邪魔が入った。 キッチンの入り口に立つナルを振り返り、ジーンは目を見張った。 お休みなのに、ナルが、そこに居た。 ファイルも書物も持っていない。 しかも、どうやら、出かけるつもりらしい。 (うわ、明日は槍が降るかも〜) かなり本気で心配するジーンに視線も向けず、苛烈な眼差しがケイリンを射抜く。 「来い」 「は、はい!」 踵を返したナルの背中を、ケイリンが慌てて追いかける。 思いきり無視され置いて行かれたジーンは、しばし、惚けていた。 が、こんな仕打ちでいつまでも固まっていては、ナルの兄などやっていられないのだ。 「僕は?ねえねえ、ナル、僕は?」 答えてくれるまでは付きまとうからね、という気迫を漲(みなぎ)らせたジーンをちらりと見やり、ナルは嫌そうに答えた。 「‥‥‥好きにしろ」 「はーい」
同行の許可をもぎ取ったジーンだったが、行く先は教えて貰えなかった。 リンの運転する車に乗り込んでから、助手席のナルに何度か問いかけたが、無視された。最後には、車から放り出される危険を感じたので、仕方なく黙る。 が、車が高速道路に乗り込んでしまっては、流石に黙っていられない。 「ナル、一つだけ教えてよ」 「なんだ?」 「今日中に帰れる?」 「なぜ?」 ジーンは嫌な予感に襲われた。 下手をするとこのまま調査に入る可能性がある。そんなことになったら、大変なことになってしまうに違いない。 「‥‥‥僕、納豆を外に出したままなんだ」 「‥‥‥‥‥‥」 「納豆って腐ってるよね?あれ以上腐ったらどうなるんだろう?」 様々な事態を想定して、ジーンは首を振る。 「‥‥‥ジーン」 「ああ、それに、生ゴミも‥‥‥」 「‥‥‥ジーン」 名を呼ぶ声の変化に気がついて、ジーンはぴたりと口を閉ざした。 「一人で帰るか?」 車の外に放り出される危険を、再び、察知して、ジーンは首を横に振る。 高速道路の直中である。普通は脅しだと受け流す所だろうが、ナルなら、やる。 「‥‥‥ごめんなさい」 しゅんとうなだれた振りをしつつ、ジーンは心中で舌を出した。 そもそも、ナルが遠出をすると言ってくれれば済んだ話なのだ。 (‥‥‥帰ったらナルに捨てさせてやる!) ささやかな復讐を誓うジーンは気づかなかった。 隣のケイリンが、そっと、胸を押さえたことに。 |
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