‥‥‥‥‥‥‥kd-third-1

 

 

 取りあえず帰ることをやめたケイリンを寝かしつけた後、ジーンは書斎に篭っているナルを問いつめた。特にどんな感情も表さず、ナルは、ケイリンから読み取った情報と聞き出した情報をジーンに教えた。

「‥‥‥‥‥‥なにそれ‥‥‥‥‥‥」

 そのあまりな内容にジーンは、目をつり上げた。

「じゃあ、ケイリンは、このままだと死ぬってこと?」

「ああ」

 素気なく言葉を返すナルの視線は、手元のファイルから逸らされない。

 机の前に立ち、憤りを募らせるジーンに気がついていないはずはないのだが、話し合うつもりはないらしい。それが、ナルだ。そんなことは分かっている。

 だが、黙っていられるわけがない。

「‥‥‥‥‥どうするのさ」

「どうもしない」

「ケイリンを見殺しにするつもり?」

「僕に人生を捨てろと?」

 ジーンは押し黙る。

「‥‥‥‥‥‥どうにかならないの?」

「無理だろうな」

 あっさりと返る冷たい返事に、ジーンは、憤りを覚えてしまう。

 ナルが悪いわけではない。

 ケイリンが悪いわけでもない。

 では、誰が、と問われれば、天帝が、悪い。

 決して王にはならぬ男を王に選んだのだから。

 なのに、その文句を言うべき相手がいない。

 会う手段もない。

 やり直しを求めることもできないのだ。

 ただ、時間が過ぎて、彼女の寿命が尽きるのを見ていることしかできない。

(‥‥‥そんなのは嫌だ‥‥‥)

 ジーンは、ナルの横顔を見やる。

 欠片の動揺も見せない弟を。

(‥‥‥いざとなったら、騙してでも、誓約させてやる!)

 不穏な決意を胸に秘めて、ジーンは書斎を後にした。

 

 

     ※

 

 

 ケイリンは幸せだった。

 これ以上はないほど。

 そう思ってはいけないと思うのに、幸せだった。

 

 主の側で死ぬ。

 

 それは、責務を忘れさせるほどに、甘やかな誘いだ。

 いまも、故郷では、飢えて苦しむ人々が居る。

 ケイリンが一刻も早く、良い王を選ぶことを待ちわびる人々が居る。

 彼らの苦しみを思うと、罪の重さに心の臓が握りつぶされる気がした。

 いっそ、そのまま、止まってしまえば良いのに、とさえ思う。

 そうすれば、新しい麒麟が生まれる。

 罪を犯していない、真に民のために尽くす、麒麟が。

 

(‥‥‥‥‥‥ごめんなさい‥‥‥‥‥‥)

 

 民に、天に、優しく接してくれる人に、ケイリンは詫びる。

 けっして赦されないと知りながらも、詫びることしかできない。

 なにがあろうとも、決意は変わらないから。

 

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