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取りあえず帰ることをやめたケイリンを寝かしつけた後、ジーンは書斎に篭っているナルを問いつめた。特にどんな感情も表さず、ナルは、ケイリンから読み取った情報と聞き出した情報をジーンに教えた。 「‥‥‥‥‥‥なにそれ‥‥‥‥‥‥」 そのあまりな内容にジーンは、目をつり上げた。 「じゃあ、ケイリンは、このままだと死ぬってこと?」 「ああ」 素気なく言葉を返すナルの視線は、手元のファイルから逸らされない。 机の前に立ち、憤りを募らせるジーンに気がついていないはずはないのだが、話し合うつもりはないらしい。それが、ナルだ。そんなことは分かっている。 だが、黙っていられるわけがない。 「‥‥‥‥‥どうするのさ」 「どうもしない」 「ケイリンを見殺しにするつもり?」 「僕に人生を捨てろと?」 ジーンは押し黙る。 「‥‥‥‥‥‥どうにかならないの?」 「無理だろうな」 あっさりと返る冷たい返事に、ジーンは、憤りを覚えてしまう。 ナルが悪いわけではない。 ケイリンが悪いわけでもない。 では、誰が、と問われれば、天帝が、悪い。 決して王にはならぬ男を王に選んだのだから。 なのに、その文句を言うべき相手がいない。 会う手段もない。 やり直しを求めることもできないのだ。 ただ、時間が過ぎて、彼女の寿命が尽きるのを見ていることしかできない。 (‥‥‥そんなのは嫌だ‥‥‥) ジーンは、ナルの横顔を見やる。 欠片の動揺も見せない弟を。 (‥‥‥いざとなったら、騙してでも、誓約させてやる!) 不穏な決意を胸に秘めて、ジーンは書斎を後にした。
※
ケイリンは幸せだった。 これ以上はないほど。 そう思ってはいけないと思うのに、幸せだった。
主の側で死ぬ。
それは、責務を忘れさせるほどに、甘やかな誘いだ。 いまも、故郷では、飢えて苦しむ人々が居る。 ケイリンが一刻も早く、良い王を選ぶことを待ちわびる人々が居る。 彼らの苦しみを思うと、罪の重さに心の臓が握りつぶされる気がした。 いっそ、そのまま、止まってしまえば良いのに、とさえ思う。 そうすれば、新しい麒麟が生まれる。 罪を犯していない、真に民のために尽くす、麒麟が。
(‥‥‥‥‥‥ごめんなさい‥‥‥‥‥‥)
民に、天に、優しく接してくれる人に、ケイリンは詫びる。 けっして赦されないと知りながらも、詫びることしかできない。 なにがあろうとも、決意は変わらないから。
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