‥‥‥‥‥‥‥kdsecond-3
『お昼ご飯を食べてから、ソファでうたた寝をしてて‥‥‥その間に、ちょっと買い物に出かけて‥‥‥帰ったら‥‥‥‥‥ああああ、どうしよう〜。あんな世間知らずな子、外に出たら、浚われちゃうよ〜』 「ジーン、落ちついて下さい」 『ナルに殺されるぅぅぅぅぅぅぅ!』 「彼女なら、ここに、居ます」 数瞬の沈黙の後、間の抜けた声が尋ねた。 『‥‥‥‥‥‥そこ?』 「ええ、いま、ナルと一緒に居ます」 今度はたっぷり一分は沈黙してから、ジーンは再び、叫んだ。
『‥‥‥‥‥‥うわちゃあ!』
何語だそれは、という突っ込みを受け入れる隙もなく、通話が切られた。 通話のとぎれた携帯を見据えたまま、リンはしばらく動かなかった。 正確には、動きたくなかったのだ。 好奇心に満ち満ちた厄介な連中と視線を合わせたくなくて。
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ナルは少女の華奢な腕を掴むと、カメラが設置されていない部屋へと連れ込んだ。そして、少女を真正面から睨む。 「なぜ、ここに、来た?」 「‥‥‥‥‥‥申し訳ございません」 「謝罪するより先に、質問に答えろ」 深々と頭を下げた少女の顔色は青い。 「‥‥‥‥‥‥もう二度と致しません‥‥‥」 ナルはけっして視線を合わせようとしない少女の顎を掴み、上を向かせる。 いつものナルからは信じられないほどの強引さだった。 ジーン、あるいはナルを良く知る者がこの場面を見ていたら、少女がたった一日で、信じられないほど深くナルの心の内に入り込んだことに気がついただろう。 が、そんなことが少女に分かるわけがない。 鋭い怒気を含んだ眼差しに射られた少女は、鳶色の相貌に怯えを滲ませた。 「答えろ」 再度の問いに、少女は相貌を揺らしたが、答えない。頑なな少女の態度に、漆黒の相貌に剣呑な光が宿る。
「--------ナル、ジーンから電話です」
前触れもなく扉を開けたリンを、凄まじく鋭い視線が射抜く。 だが、少女と違って、耐性のあるリンは、変わらぬ無表情な顔で携帯を差し出した。そして、怯えきっている少女に視線を向ける。 「ジーンが心配してましたよ」 「‥‥‥‥‥‥ごめんなさい‥‥‥‥‥‥」 「今度からは、飛び出す前に、相談して下さい」 「‥‥‥‥‥‥はい」 少女は、泣き出しそうな顔で、頷いた。 そんな少女を見やるリンの視線は、いつもより遥かに柔らかい。 「リン、馬鹿を車に連れて行け」 「その必要はありません。いま、ジーンが迎えに来ます」 ナルは眉間にくっきりと皺を寄せたまま、リンが差し出した携帯を掴んだ。
「なにをしてるんだ、おまえは」 『ごめーん。つい、うっかり、昔、調査で怪我をしたこととか話しちゃってさ〜』 「子守りぐらいできるとほざいたのはどこの誰だ?」 『ごめんごめん。まさか、あんなに心配するとは思わなくてさ〜。そんなことより、ナル、あんまりきつく叱ったら駄目だよ。ケイリンを泣かせたら、僕が、怒るからね〜』 「‥‥‥‥‥そんなことが言える立場か?」 『それとこれは別〜。ケイリンは無茶苦茶可愛いから、苛めたら、駄目。苛めたら、僕が貰うからね〜』 言いたいことだけ言って、ジーンは通話を切った。 その会話を聞きたくないのに聞いていたリンは、片手で顔を覆った。 その態度を言葉にするのならば、
どうして火に油を注ぐようなことを言うんですか‥‥‥。
だろう。 そして油どころか火薬をぶち込まれた博士様は、燃えるような眼差しを、扉の隙間から見物している滝川たちに向けた。 「‥‥‥よほど、お暇なようですね」 身の危険を感じた滝川たちは、わたわた、と下手な言い訳を口にして逃げていく。しかし、逃げられるわけがない。
後に合流したジーン共々、滝川たちは体力気力の限り、こき使われた。 少女の身元を探ろう、という気力が出てこないほどに。
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