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     ※

 

 

 渋谷サイキックリサーチに今回持ち込まれた調査は、実に、興味深いものであった。データーもクリアに取れるし、調査も順調に進み、予定通りの日程で後始末まで済みそうであった。

 だが、予想外の出来事が、協力者たちご一行を襲っている。

 古びた洋館の一室、当人には聞こえない所で、彼らは、愚痴を言い合う。

「‥‥‥‥‥‥たまらんな〜」

「‥‥‥‥‥‥機嫌最悪よね〜」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥困りましたね。お兄さんが居ないと、こんなに所長の機嫌が悪くなるとは予想外でした‥‥‥‥‥‥」

「それ、私も意外だったわ。いつもはあんなに邪険にしてるのにね〜」

「居ないとありがたみが身に染みますね‥‥‥」

「真砂子とジョン、今回参加できなくてラッキーよね。真砂子は悔しがってたみたいだけど‥‥」

 いつもの彼らならば、話題の人物がいくら不機嫌でも、けっこう平気で軽口を叩くことができる。慣れている、ともいう。そもそも機嫌が良いのは、クリアなデーターが取れた時だけ、というマッドな博士様である。気にしていたら、付き合っていられない。

 だが、今日のナルは特別だ。特別機嫌が悪い。

 人使いが荒いのも口が悪いのもいつものことだが、さらに酷い。その上、クリアなデーターを前にしても眉間の皺が取れないのだ。

「‥‥‥そろそろベースに引き返さないと怒られますねぇ」

「帰りたくないなぁ」

「同感」

 いつも場を和ませていてくれた青年の有難みをしみじみと実感しつつ、滝川たちはさらに延々と愚痴を言い合った。 

 

 

 ぼやく彼らの後ろに、リンが立っていた。

 立ち聞きするつもりはなかったのだが‥‥。

『今回、僕はお留守番してるね〜』

 脳裏には、やけに嬉しそうな青年の笑顔が刻まれている。確かに、彼女を一人にしておくことは避けた方がいいだろう。‥‥‥一人で置いていった場合、後を追い掛けて来る可能性が非常に高い。どうしてそこまで、と思うほどに、少女は不機嫌な青年を慕っている。無茶な願いを聞き届けるほどに。

 そして、ここには、なるべくなら事情を知らせたくない者たちが居る。

 信用していないわけではないが‥‥。

『落ち着くまでは秘密にしといた方がいいよね。‥‥‥騒がれたり、冷やかされたりしたら、ナルの機嫌が無茶苦茶悪くなるだろうし‥‥‥』

 同感である。

 だが、あれでは、連れて来た方がましだったのではなかろうか。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 リンは、軽く息を吐き出して、ベースに戻っていった。

 カメラがあるとも知らず、愚痴をこぼす哀れな滝川たちを置き去りにして。

 

  

 さて、滝川たちが愚痴を言い合って、ちょっとすっきりしてベースに戻ると、不機嫌なナルが待っていた。

「みなさん、ご不満がおありのようですね」

 にっこり、と上っ面だけの笑みに迎えられた面々は硬直した。

(‥‥‥おいおい、なんか、やばくないか?)

(ばれてるみたいですねぇ?)

(‥‥‥‥‥‥なんでよ‥‥‥‥)

 三人は焦りながら、視線で会話する。戸惑う三人に、ちらり、とリンは視線を向けた。そして軽い溜息を吐き出すと、モニターを指差した。実に珍しいリンからの助け船である。三人はそれに目をやり、ついで、心中で絶叫した。そこには、三人がつい先ほどまで居た場所が、しっかり、ばっちり、映し出されていたのである。

 つまりなにもかも聞かれてしまったわけである。

 絶体絶命の危機である。

 三人は蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くした。だが、ここで、またしても助け船が出航した。

 

「ナル!」

 

 異変を告げるリンの声にナルは振り返る。

 そしてリンが指差したモニターに目を向けて、眉をひそめた。

 モニターの中では、長い栗色の髪をした少女が、不安そうに周囲を見回している。なにかを探すかのように‥‥‥‥‥‥。

「あの、馬鹿」

 吐き捨てるようにして呟くと、ナルはベースを出ていった。

 置き去りにされて助かった三人は、ナルの背中を見やり、ついで、モニターを見つめる。そして、少女に足早に近付くナル、というとんでもないものを見てしまった。しかも、少女は、ブリザードどころか、切りつける刃(やいば)のような視線に睨まれても、動じない。逃げない。それどころか、それはそれは嬉しそうに微笑んで、駆け寄ったのだ。

 さらには、そんな少女の腕をナルが掴んだ。

 人に触(ふ)れることも、触(さわ)られることも毛嫌いしている、あのナルが。

「‥‥‥‥‥‥リン、この嬢ちゃんはいったい」

 少女の腕を掴んだナルは、すでに、カメラの前には居ない。

 こちらに戻ってくるつもりはないようである。

「‥‥‥‥‥‥知り合いです」

 嘘ではない。

 だが、そんな説明で納得するような滝川たちではない。

「知り合いって、どういう知り合いよ」

「たんなる知り合いには見えないぞ」

 なんとごまかすべきか、と思案しているリンの携帯がけたたましく鳴った。

「‥‥‥はい」

 

『大変だよ!ケイリンが居なくなったぁぁぁ!』

 

 予想通りの人物からの予想通りの絶叫に、リンは吐息を吐き出す。

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