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「‥‥‥‥‥‥ケイリン、ケイリン、朝だよ」 目覚めると、漆黒の相貌が目の前にあった。 「やあ、やっと起きたね。おはよう。朝御飯ができたよ」 瞳を優しく和ませて笑う人は、ユージーン。ジーンと呼んでね、と言われたのは昨日のこと。そしてあの人のことは、ナル、と呼ぶように言われた。 主上、と呼んだら返事をして貰えないので、気を付けないといけない。 様、も付けては駄目。 「‥‥‥‥‥‥おはようございます。あの‥‥‥」 「ナルなら、調査に出掛けたよ」 「‥‥‥‥‥‥調査‥‥‥‥‥‥」 居ないことは分かっていた。 仕方のないことだ。 けれど、落胆は抑えられない。 「そんな顔、しないの。ナルなら、二、三日で帰って来るから。それまでは、ここで大人しく待っている約束だろ?」 「‥‥‥‥‥‥はい。ごめんなさい」 「謝る必要はないよ。ケイリンのお陰で、お休みが貰えて、実は、けっこう嬉しかったりするし」 昨日のことを思い出して、ジーンは心底楽しげに笑った。
昨日、ケイリンの話を聞いたナルは‥‥‥。 「断る」 容赦なく誘いを蹴った。 まあ、それは、予想範囲内の出来事である。と、いうか、頷いたら、それは、ナルじゃない。王様になったら色々と特典があるようだが、そんなもので、ナルは動かせない。 その場に居合わせたジーンは、いまにも泣き出しそうな顔をした少女に、加勢しても無駄だと分かっていた。それに、ナルを連れて行かれるのも嫌だった。こんなんでも、大切な弟であり、血の繋がった最後の家族だ。行ってしまったら、二度と会えない‥‥‥それは淋しい。 だが、少女をそのまま見捨てることもできなかった。 「まあまあ、そんなすぐに答えを出さなくてもいいじゃないか。大切な決断だし、大変な選択だしね。ともかくケイリンに、あちらのことをもう少し聞いて、それから決めたら?」 ポイントは、あちらのことを聞く、である。 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 相変わらずの仏頂面ではあったが、ナルの目が輝いたことにジーンは気付いていた。そもそもナルは、麒麟という不可思議な生き物に多大な興味を抱いている。できれば、手放したくないに決まっている。 「‥‥‥‥‥‥ケイリンも、それで、いいよね?」 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥はい」 「よし、じゃあ、ケイリンは今日から僕たちの新しい同居人決定〜」 「‥‥‥‥‥‥ジーン」 不機嫌な声に、ジーンは笑い返した。 「まさか、身寄りも知り合いも居ない女の子を放り出す、なんて酷いことは言わないよね?」 ナルは深い深い吐息を吐き出した。 それは、彼が、不本意ながら同意したということだ。 「よし、決まり〜」 喜びながら、ジーンは驚いていた。もっとごねると思っていたのだ。 初対面の少女をテリトリーに入れるのだ。 いつものナルなら、凄まじい勢いで反発するだろう。 (‥‥‥‥‥‥気に入った、とか?‥‥‥‥‥‥) どう気に入ったかが問題である。ナルを信用していないわけではないが、目を離さないようにしなくてはならないだろう。
「‥‥‥‥‥‥いただきます」 「はい、どうぞ」
神妙な顔で朝食を食べ始める少女を見やりながら、ジーンは心中で苦笑していた。昨日は大変だった。これからも大変だろう。少女に罪はないが、厄介ごとを持ち込んだことは確かだ。なのに、どうしても、少女を追い返す気にはなれない。ナルも、実は、戸惑っているらしい、と知っている。 昨日会ったばかりだ。 それは間違いない。 なのに、少女は、隣りに居るのが当たり前な気がした。
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