目が覚めたら‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猫日和2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、ミルク臭かった。

 腹が膨れてついうっかりとうたた寝をしてしまったことに気が付いて、イルカは、慌てた。寝ている暇などないのである。なんとかして脱出しなくては‥‥‥。

 と、決意して、イルカは頑張った。

 とってもとってもとっても頑張った。

 うんとうんとうんと頑張った。

 ので‥‥‥。

「‥‥‥にゃーん」

 イルカは、ただいま、大変、ご機嫌なまま、受付所への道を駆けていた。

 尻尾の先がちょっと焦げていたり。

 ちょっと薄汚れていたりするが、イルカはご機嫌である。

 途中、これは流石にやばいかも、なんて思ったことも、いまは、すっかり忘れ果て、達成感に満たされていた。

 まだまだ困難が立ち塞がるとも知らずに‥‥‥。

 

 

     ※

 

 

 夕暮れ時、イルカは、黄昏ていた。

 ちなみに、猫のままである。

 なぜか、猫のままである。

 ついでに、気付いても貰えなかった。

 哀しいほどに誤解された。

 なにがいけなかったのかイルカにはさっぱり分からない。

 まず、最初は、こんな格好になったことをみんなに知られるのは恥ずかしいな、とかとか思ったので‥‥‥。

 ある人物が通りがかるのを待ち伏せていた。

 そして、その人物は、とっても幸運なことに、すぐに、現れた。

「‥‥‥うにゃーん!」

 イルカは駆け寄った。

 そして、必死に、訴えた。

 だが‥‥‥。

「おお、可愛いにゃんこだなっっ!尻尾が焦げているぞ!火遊びはよくないな!」

 なんだか、非常に明るくそんなことを言われて、

「青春だな!頑張れよ!」

 励まされて、置いて行かれた。

 頑張って懐いたのに。

 頑張って訴えたのに。

 気付いて貰えなかった。

 ‥‥‥だが、イルカの運は尽きていなかった。

 目の前を熊‥‥いやいや、アスマ先生が通ったのである。

 イルカは、飛びついた。

 もはや、借りを作っても後が怖くないからガイ先生が良いなー、などと、言っている場合ではないと覚悟を決めたのである。

「‥‥‥おおっっ?」

「うにゃーんっっっ!」

「‥‥‥おお?」

「うにゃうにゃうにゃーんっっっ!」

 猫イルカは頑張った。

 必死に伝えようとした。

 イルカの真似をして跳ねたりもした。

 なのに‥‥‥。

「‥‥‥面白い猫だなぁ。けど、なあ、めんどくせぇ」

「‥‥‥」

 どういう文のつながりなのか。

 ただ単に口癖なのか。

 どうしても言わずには居られないのか。

「‥‥‥だから、悪いな。拾うとうるせぇ奴がいるからな」

 頭を撫でて立ち去る熊‥‥‥いやいやアスマ先生‥‥‥いやいや、もはや、熊と呼んでやりたい上忍を見送って、イルカは、呆然とした。

 だって、上忍である。

 一応、上忍である。

 上忍の中でもトップクラス二人なのだ。

 なのに、どうして、気付かないのか。

 どうして、気付いてくれないのか。

--------そこまで考えて、イルカは、ものすごーく嫌なことに気が付いた。

 チャクラが練れない辺りからおかしいとは思っていたが‥‥‥。もしかしたら、もしかしなくても、いま、イルカに掛けられている術は、変化の術もどきどころではない危ない術なのかもしれない。

 腐っても、火影屋敷。

 倉庫でも、一応、火影屋敷。

 埃にまみれていても、一応は、火影の持ち物。

--------‥‥‥やばいかもしれない。

 イルカは、腹を括った。

 本当に、諦めた。

 この恥を、みんなに晒しても、仕方ない。

 自業自得なのだから!

 と、覚悟を決めて、イルカは、受付所に、飛び込んだ。

 カウンターに乗って、盛大に意志表示してみた。

 同僚になついてみた。

 跳ねてみた。

 なのに‥‥‥。

 なぜか‥‥‥。

「‥‥‥か、かわいい、猫だなぁぁぁ」

「‥‥‥ひ、人なつこいなぁぁぁ」

「‥‥‥あ、あら、尻尾が焦げていてかわいそう‥‥‥」

 誰も誰も気付いてくれなかった。

「‥‥‥ふにゃーんっっっっ!」

 しかも、絶叫したら、なぜか、みんな、視線を逸らした。

 だが、だが、だが、この人ならば、と、イルカは、希望を捨てていなかった。

 そう、この里で一番偉い、火影様ならば、と。

 なのに‥‥‥。

「‥‥‥ふーん、随分と、変な動きをする猫だねぇ」

 それだけですか。

 それだけだった。 

 頭を撫でてくれたけれど。

 腹が減っているのかもねぇ、と、ご飯を食べさせるように言ってくれたけど。

 それだけだった。

 同僚が慌てて用意してくれた卵焼きは美味しかったけど。

 鮭も美味しかったけど。

 つい腹が膨れてうたた寝したけれど!

 気付いて貰えなかったことが、イルカは、哀しくて仕方ない。

 これからどうしたら良いのかも‥‥‥さっぱりだった。

「‥‥‥ふにゃー」

 もうすぐ日が暮れる。

 とりあえず今日は帰るしかないだろう。

 ‥‥‥が。

 ‥‥‥問題がある。

 再び、あの、トラップを越えなくてはならないのだ。

 しかも中から出るより外から入る方が難しいのは当然だ。

 仕掛けた罠の中には、かなりえぐいものもあったりする‥‥‥。

「‥‥‥ふにゃー」

 野宿か。

 野宿しかないのか。

 ‥‥‥まあ、一晩ぐらい野宿しても平気だが。

 けど、だが‥‥‥。

--------一晩で済むだろうか。

「‥‥‥‥‥‥」

 悩んでいる間に、あっと言う間に夕陽は、沈み、月が出ていた。

 夜空を見上げて、イルカは、ものすごく、泣きたくなった。

「‥‥‥まったく」

 けど、泣かないで我慢していたら、声がした。

 夜の闇の中からひっそりと。

「‥‥‥なにやってるんですか、あなたは」

 そして、手が、当たり前のように伸びてきて捕まえられた。

「‥‥‥うにゃー」

「うにゃーじゃありませんよ、イルカ先生。こんな可愛い姿でうろちょろしないで下さいよ。浚われたらどうするんですか」

 見上げれば、月光を弾く銀色がきらきらしていた。

 そして、ご機嫌な猫のように目が細くなっている。

「‥‥‥うにゃー」

 カカシ先生だった。

 イルカを抱えているのは、変態でわけが分からないことばかり言ってプライバシーを吹き飛ばす、イルカの天敵とも言うべき人だった。

 ‥‥‥。

 ‥‥‥。

 ‥‥‥。

「う、うにゃーっっっっっっっっっ!」

 あまりの心細さに、気付いて貰えた安堵感に、うっかりと流されてしまったが、この男にだけはばれてはいけなかったことを、イルカは思い出した。

「ははははははは、可愛いですねぇ」

 だから、暴れた。

「この尻尾が良いですねぇ」

 だから、暴れた。

 だが、腐っても上忍。

 爛れても、上忍。

 変なことをする変態でも、上忍。

 人間であってもかなわないのにチャクラさえ練れない猫では、かなうわけがない。かわいいかわいいかわいいと全身をなでなでされて、尻尾を掴まれて、とんでもない所を眺められた。

「‥‥‥あ、ちゃんと、あるんですねぇ。はは、ここも随分と可愛くなっちゃいましたねぇ」

「ふぎゃーっっっっっ!」

 イルカは暴れた。

 ものすごく暴れた。

 そして、なぜか、運良く、逃げられた。

「ふにゃーっっっっっっ!」

「ふーん」

 だが、駆け出すことはできなかった。

 動けなかった。

「逃げるんですか?‥‥‥いいですよ、逃げても。ただし、次に捕まえたら、お仕置きしますよ」

 お仕置きっっっっっ!

 恐ろしい台詞にイルカはすでに腰が抜けそうだった。

 まだ、最後の一線はなんとか逃げているが、とんでもない悪戯を多々されている身である。カカシの言うお仕置きがどういう種類のものかは‥‥‥分かりたくないけれど‥‥‥分かった。

「浮気されて、俺は、怒っているんです」

 しかもカカシの言うことは意味不明だった。

 いつも言うことは良く分からないが。

 今日はもっと分からない。

「自分で戻ってきたら、赦してあげてもいいですよ?」

 なにを赦して貰うと言うのか。

 なんのことか。

 イルカにはさっぱり分からない。

 だが、逆らったらやばい。

 それは分かる。

 本能がびしばしと教えてくれる。

「‥‥‥う、うにゃーん」

 なつけ。

 なつけ。

 なつくのだ、と、イルカは、頑張った。

 本能のままに、天敵に等しい男の足に擦り寄った。

 抱えられて喉を触られたら喉を鳴らした。

 顔が近付いたら舐めた。

「‥‥‥うにゃーん」

 プライドの欠片がちくちくしたが、イルカは‥‥‥。

 怖かったのである。

 目がぎらぎらしている上忍が、ほんとーに怖かったのである。

 命の危機の前では、自尊心など、意味がなかった。

 だが‥‥‥。

 それは‥‥‥。

 やりすぎだったかもしれない。

「‥‥‥嬉しいな。やっとイルカ先生も分かってくれたんですね」

 先ほどまでの体の芯が凍えるような殺気はどこに行ったのか。

 覆面越しでも分かる満面の笑顔を浮かべた銀色の上忍を見上げて‥‥‥。

 イルカは、背筋を、ぞくぞく震わせた。

「大丈夫。赦してあげますよ。俺は、寛大な恋人ですからねー。でろでろに甘やかして可愛がって俺の精液でびしょびしょにしてあげますからねー」

「‥‥‥‥‥‥」

 イルカは、一瞬、惚けた。

 人間、とんでもないことを言われると、すぐには対応できないものなのかもしれない。だが、理解しても、無駄だった。どうせ、逃げられないのだから。

「‥‥‥ふぎゃーっっっっっ!」

「さーて、その前に、この術を解いてあげないとねー」

「‥‥‥ふぎゃーっっっ!ふにゃーっっっ!ふぎゃーっっっっ!」

 誰か助けてくれ、と、イルカは絶叫した。

 だが、当然のことながら‥‥‥。

 助けは現れず、イルカは、まさしく掌に包まれて、お持ち帰りされた。

「最初は、やっぱり、後ろからですかねー。それとも前から?あ、影分身で同時ってのも捨てがたいですねー。前も後ろも可愛がってあげれるし。任せてくださいねー。うんと気持ちよくしてあげますからねー」

「‥‥‥ふぎゃーっっっっっっっっ!」

     

  

 

 

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