獣の恋-2

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた途端、イルカは、混乱した。

 体中が、おかしかった。

 視界も。

 感覚も。

 なにもかもが。

 異変が起きていることはいやでも分かったが、それが、なんなのか、イルカにはよく分からなかった。いや、分かりたくないと言うべきだったかもしれない。

(‥‥‥そんな馬鹿な)

 そう思いながら、イルカは、きゅっ、と、後ろの口を窄めた。途端、イルカの中に入り込んでいたものの形を、よりいっそう明らかにしてしまう。

(‥‥‥嘘だ)

 イルカは、これが夢ではないのならば、犯されていた。

 視界を封じられ、体の自由を奪われて、眠っている間に、貫かれていた。

--------ぐち。

--------ぐちゅ。

--------じゅば。

 淫らな水音が、聞こえていた。

 そして、自分以外の人間の、男の、息づかいも。

「‥‥‥ん‥‥‥ん、んー」

 イルカは、声を上げた。

 だが、口も封じられていて、まともな言葉が出てこない。

「‥‥‥おはよう。可愛い人」

 耳元で、ぞくりとする声が、響いた。

 どこかで聞いた気がする声だったが、良く分からなかった。

「‥‥‥気持ちよいでしょ?もっと気持ちよくしてあげるからね」

 声の主は、イルカの体を、いとも簡単に動かした。

 そして、立ち上がっているイルカのモノを、ゆるゆると扱いた。けれど、それは、快楽と一緒にちくちくとした痛みをイルカに与えた。

 イルカは、犯されていた。

 同時に、イルカは、縛られていた。

 立ち上がり、吐き出したいと訴えているモノまでも。

「‥‥‥んー‥‥‥んー」

「可愛いねぇ」

--------ぐち。

--------ぐちゅ。

--------ぐちゅり。

 淫らな水音と共に中を抉られて、前を扱かれる。

 イルカは、すぐに、前を限界まで立たせた。

 けれど、どうしても、達することはできない。

 根元で縛られていて、どうすることもできなかった。

 苦しくて苦しくていきたくてイルカは泣いた。

 けれど、解放はなかなかされず、後ろを抉られたまま、前を扱かれる。

「‥‥‥んー‥‥‥んんーっっっ!」

 限界が訪れていた。

 イルカは不自由な体を必死に揺すった。

--------ぐち。

--------ぐち。

 イきたかった。

 達したかった。

 吐き出したかった。

 忍として当然の、まず現状を把握する、という、手順さえも、いまのイルカの頭の中からは、消え失せていた。ただ、頭の片隅で‥‥‥そんな自分の状態を冷静に判断もしていた。

(‥‥‥‥‥‥くすり‥‥‥)

 おそらくは、相当に強力な薬が、使われているのだろうと。

 けれど、同時に、これが、悪い夢であればいい、とも、願っていた。

--------ぐち。

--------ぐちゅ。

 肌のぶつかりあう音が響いている。

 淫らな水音がひっきりなしに響いている。

 水音の元がどこであるかイルカは考えたくもない。

 なにもかもが夢で。

 夢ではなくても、幻術ならば、いい。

 現実逃避だと分かっていても、まともに考えられない頭の片隅で、切れ切れに、イルカは、何度も、強く、願う。

--------ぐち。

--------ぐちゅ。

 だが、尻の合間に突き刺さったモノの感触は、消えない。

 それは、腰に痺れるような感触を与えながら、延々とイルカの中を抉り続けている。

 どうしてこんなことになったのか。

 どうしてこんなことになっているのか。

 イルカには本当に分からなかった。

 記憶にある限り、こんなことに陥る予兆はなにも無かったはずだ。

「‥‥‥あー、最高っっ!」

 奇妙な形に固定された体が、持ち上げられた。

 そして、そそり立つモノの上に、落とされる。

「‥‥‥んんんーっっっ!」

 イルカは布越しに悲鳴を上げた。

 けれど、やはり、達することはできないまま、腹の内側に、熱い飛沫を浴びた。

--------犯された。

 いまさらに、イルカは、そのことを強く実感する。

 そして、未だに、解放されることのない己のモノに、痛みさえ覚える。

 イきたかった。

 達したかった。

 吐き出したかった。

「‥‥‥イきたい?」

 だから、イルカは、頷いた。

「‥‥‥じゃあ、俺の言うこと、ちゃんと聞いてね。よい子にしていたら、いっぱい出させてあげる。でも、悪い子だったら、出させてあげない。分かった?覚えられた?」

 イルカは、頷いた。

 頷くしかなかった。

「じゃあ、いっぱい、出させてあげる」

 するり、と、イルカのモノを縛り上げられていたモノが無くなった。イルカは、勢いよく、射精した。後ろに男のモノをくわえ込んだまま、やっと解放された快感に、浸る。

「‥‥‥ふふ、たくさん出たね。でも、まだまだ出さないとね」

 だが、すぐに、また、激しく揺さぶられて、なにも、分からなくなった。

「‥‥‥んーっっ!」

 やっと解放されて萎えたモノが、また、扱かれて、立ち上がる。

 後ろを抉られて、背筋が、ぞくぞくする。

 特に、集中的に擦られる場所は、快感というよりは衝撃をイルカに与えた。

 イルカは、逃げたかった。

 解放されたかった。

 これは悪夢だと思いたかった。

 だが、イルカを押さえつけ、力の抜けた体を自在に動かす男の腕は力強く、揺るぎもしない。密着した肌の暑さが、夢だと思い込むことも許さない。

「‥‥‥後ろ、ゆるゆるにしてあげるからね。いつでも、どんな時でも、すぐに入れられるようにしてあげる」

 そして、声が。

「ここも、うんと一杯いじって、大きくしてあげる。それとも、ここも縛って、女の子みたいな胸を作ってあげようかな」

 低い声が、恐ろしいことを、告げていく。

「ああ、楽しみ。‥‥‥気が狂いそうなほどに楽しみだよ」

 悪夢は、これで、終わりではないのだと。

 これから始まるのだと。

 逃がしはしない、と。

「まずは、俺の形を覚えてね。たくさんしてあげるから、ちゃんと、覚えるんだよ。もうこれ以外は、ここに入れたら駄目だからね。ここに入っていいのは、俺のだけだからね。‥‥‥ああ、でも‥‥‥俺が入れるのなら、他のも入れていいよ。玩具を一杯入れてあげる。でも、その前に、いっぱい、いっぱい、いじって、舐めて、突いてあげる」

 ねっとりと響く低い声は、まるで、呪いの言葉のようだった。

「‥‥‥んー、んーっっ!」

 これほどに禍々しい声を、イルカは、聞いたことがない。

 けれど、それでも、やはり、どこかで、その声を聞いたことがある気がした。

 だが、どうしても、思い出せない。

 必死に、混乱している脳味噌を、正気にしようとしても。

--------ぐち。

--------ぐちゅ。

--------じゅぱ。

 淫らな水音と、全身をいじられる快楽が、邪魔をする。

 切れ切れの思考も、端から、溶けていく。

 いまさっき聞いたことももう思い出せない。

--------ぐち。

--------じゅぱ。

--------ぐち。

 気持ちよかった。

 どうしようもなく気持ちよかった。

 全身を戒められて逃げられなくされて強く抱き締められると。

 どうしようもなくなにかが満たされる気がした。

--------ぐち。

--------じゅぱ。

--------ぐちゅ。

「‥‥‥ふふ、お尻振って、可愛い」

 気持ちよかった。

 気持ちよかった。

 気持ちよかった。

 なにもかもがどうでもよくなるほどに。

「ほら、また、イっていいよ。たくさん出しなさい」

 男に促されるまま、イルカは、また、精液を、吐き出した。

 男のモノを後ろにくわえ込んだまま、突かれながら、吐き出した。

 それは、恐ろしいほどに、気持ちよかった。

 けれど、まだ、足りない。

 まだ、まだ、足りない。

 もっと、もっと、もっと、欲しかった。

(‥‥‥‥‥‥く‥‥‥すりが)

 こんなのはおかしい、と、思ったけれど。

 胸を強い力でいじられ、前を扱かれて、後ろを擦られると、もう、どうにもならなかった。 気持ちよくて気持ちよくて気持ちよくて気持ちよくて、なにがどうなっているのかなどもうどうでもよかった。

(‥‥‥‥‥‥‥‥‥く‥‥‥すり‥‥‥)

「気持ちよい?」

 問いかけにイルカは頷いた。

「もっと欲しい?」

 イルカは頷いた。

 頷く以外の選択肢など考えられなかった。

「かわいい。本当に、めちゃくちゃかわいい。じゃあ、ちゃんと、滅茶苦茶にしてあげる。お腹の中がたぷたぷになるまで注いであげる。‥‥‥可愛い乳首も、うんといやらしくしてあげる。淫乱そのものの色と形にしてあげるからね」

 きゅうっ、と、立ち上がった乳首をつままれて、イルカは、うめいた。

 痛さにうめいたわけではなくて、気持ちよさにうめいた。

 そして、淫らな水音を聞きながら、必死に、保とうとしていた意識を、快楽の海に投げ込んだ。

 気持ちよかった。

 気持ちよかった。

 気持ちよすぎて、イルカは、もう、駄目だった。

「大好き、イルカせんせい」

 だから、気づかなかった。

 独特のイントネーションで名前を呼ばれたのに。

 その少し変わった、語尾を少しだけ上げるイントネーションで呼ぶのは、ただ一人だったのに。声の主が、誰なのか、気づくことが、できなかった。    

 

 

 

 

 

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