‥‥‥‥‥‥‥finish -1

 

 

 麻衣が目を覚ますと、ナルが居た。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ、ナルだ」

 そのあまりに暢気な声に、固唾を呑んで見守っていたメンバーたちから、盛大な苦情が出た。

「‥‥‥‥‥‥あんたねぇ‥‥‥‥‥‥」

 綾子が脱力すれば、

「‥‥‥‥‥‥麻衣らしすぎますわ‥‥‥‥‥‥」

 真砂子が吐息を吐き出す。

「良かったです。‥‥‥命拾いしました〜‥‥‥」

 そして安原は、笑いながら胸をなで下ろした。

 

「暴走するな、と言わなかったか?」

 

 あまりにあんまりなお言葉の後に、氷点下の気温に晒されて、麻衣は目を見開いた。そして、ぷくり、と頬を膨らませる。

「ナルの馬鹿」

 とたん、周囲が沈黙する。

(‥‥‥‥‥‥な、なんてことををっっ!‥‥‥)

 周囲の動揺に微塵も気付かず、麻衣はぷいっと横を向いた。

「‥‥‥‥‥‥麻衣」

「ナルなんか嫌い」

「‥‥‥‥‥‥麻衣」

「大嫌い」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 漆黒の相貌が不穏な光りを宿す。

「麻衣、それはないだろう?ナル坊にはナル坊の理由があるんだからさ」

 意外なことに、あまりに意外なことに、口出ししたのは滝川だった。そして、

「そうですよ、麻衣さん」

 さらに意外なことに、ジョンが、実に珍しく強い口調で言い切った。

  

‥‥‥‥‥‥被害者たちを実際に見てしまった二人にとっては、今回の隔離も、ナルの心配も、ごく当たり前のことに思えたのだ。

 

 だが、取り残された面々には分からない。珍しいこともあるものだと、ジョンと滝川を見て、それから‥‥‥。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 大嫌い、と言っていたはずの麻衣がナルにしがみついているのを見て、全員が遠い目をした。そして、誰からともなく腰を上げると、そそくさと退散する。

 

「‥‥‥‥‥‥ナルの馬鹿‥‥‥大馬鹿‥‥‥」

 悪態をつきながら泣きながら、しっかりとしがみつく麻衣に、ナルは苦笑を漏らした。

「‥‥‥‥‥‥聞いたのか」

「‥‥‥‥‥‥うん」

 誰に、とは聞くまでもない。

「麻衣には見せたくなかったんだ」

「‥‥‥‥‥‥うん。分かってる。私が居たら、足手まといに絶対になっていたって分かってる。‥‥‥‥‥‥分かってるけど、ナルが‥‥‥私の知らない所で私のせいで傷つくのは嫌なの」

「麻衣の責任ではないな」

「でも‥‥‥‥‥‥」

「奴が麻衣を見つけたのは、僕のせいだ」

 麻衣は、きょとん、とナルを見上げた。

「‥‥‥‥‥‥奴には麻衣が明かりに見えた。明かりは闇の側に居れば際だつ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「僕は奴と同じだ」

 暗い目をして呟くナルは、いつもとはまったく違う。

 途方に暮れて、どうしたらいいのか分からなくて、立ち竦んでいる子供のように見えた。

「大好き」

 なんの脈絡もなく囁いて、麻衣はさらに強くしがみつく。

「‥‥‥‥‥‥麻衣」

「闇のどこが悪いの?私は好き。ナルの真っ黒な髪も目も‥‥‥大好き」

「‥‥‥‥‥‥逃げるならいまのうちだぞ?」

「どうして逃げなければいけないの?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「こんなに好きなのに‥‥‥ナルは?私が邪魔?居ない方がいい?」

 真摯な目で問い掛けられる。

「‥‥‥‥‥‥居ない方がいい、と思ったことはないな」

「じゃあ、好き?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「たまには言葉にして欲しいよ。言葉がなくても分かることもあるけど‥‥‥一度も言ってくれないから、不安になることもあるんだよ」

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