なし崩しにごまかされたような‥‥‥。
浸透愛〜しんとうあい7〜
「はい、あーん」 爽やかな朝の光の中、イルカはなんだかいろいろと納得がいかなくて困っていた。しかしいまさら文句を言うのも違う気がして、非常に複雑だった。 「‥‥‥」 しかも、いまの自分の状況を考えると、文句を言える立場ではない気がする。 「はい、あーん。美味しいですか?デザートには美味しい桃を用意しましたからね。楽しみにしててくださいねー」 目の前には、にこにこ満面のカカシ先生。 差し出されるのは、とろとろうまうまの雑炊。 ほどよく塩味の効いた鮭は美味しいし。 卵焼きだって、ふわふわだ。 ‥‥‥けど、美味しいけど、食べさせられるのは、ちゃんとした一人前の大人として、どうだろう。 だが、それも、もはや、今更なのだ。 空腹に耐えられず言われるがままに口を開き、ご飯はもうほとんど食いつくし、あともうちょっとで終わりだった。 「はい、終わりですよー。お腹一杯になりました?」 とりあえずうなづく。 途端、にこにこ笑顔がさらににこにこになった。 「かわいー」 「‥‥‥」 べろり、と、口の端を舐められた。 ぎょっとするが、これも、やはり、今更だった。 朝起きてから、数えるのを放棄するぐらい、顔中にキスされているのだから。 どうしても驚いてしまうが、やっぱりな、とも、思ってしまう。つまり、段々と‥‥‥慣れて来ていた。 「もう、可愛くて可愛くてたまんない。イルカ先生、大好き。‥‥‥ねえ、早く、俺のこと、好きになってね」 そして、この台詞も、もう何回も聞いている。 昨晩からずっと‥‥‥。 昨晩‥‥‥。 『‥‥‥ああ、もう、射れたくてたまんない。奥の気持ち良い所、突いてあげたいよ、イルカ先生。気持ち良くて、たまんないよ?‥‥‥早く、俺のこと、好きになって。好きになってくれたら、もっと、もっと、気持ちよくしてあげる』 イルカは、唐突に、昨晩のえろい声を思い出した。 寝室で、風呂場で、響いた声を。 そして、もたらされた、強烈すぎる快楽も、甦る。 --------お、思い出すなっっっ!俺っっっ! 必死に自分に言い聞かせても無駄である。 むしろ思い出さないようにすればするほどに。 どんどん甦ってくる。 『‥‥‥綺麗にしてあげるからね』 結局の所、イルカは、射れられずに済んだ。 ただし、散々に、喘がされ、散々にいじられて‥‥‥。 『‥‥‥ここ、傷ついてなくて、良かった』 後ろの中まで、なんだかんだと、舐められて‥‥‥気持ちよくさせられた。 その悦楽は、本当に、延々と続いた。 途中、もういっそ射れてくれ、と、何度思ったことか。 「‥‥‥いーるか先生?」 「は、はいっっっ!」 呼ばれて我に返り、イルカは、ひどく間近に綺麗な顔があることに気が付いた。 もう本当に目の前に。 「ぼうっとしてどうしたの?」 「‥‥‥い、いえ、なんにも」 昨晩のことを思い出してましたなんて言えるわけがない。 ましてや、ちょっと、思い出して、少しだけ、恥ずかしい所が、堅くなってますなんて絶対に言えない。 「ふうん?‥‥‥ちょっと、ごめんね」 「っっっっっ!」 けれど、ばればれだったようだった。 布団をめくられて、寝間着の中に手を入れられて撫でられては‥‥‥。 ごまかすことも無理だった。 「ふふ、ちょっと堅くなってるね。抜き足らなかった?」 「‥‥‥っっっっ!」 イルカは、必死に、首を横に振った。 抜き足らないなんてことは絶対にない。 断じてそんなことはありえない。 現に、イルカは、まともに起き上がれないのだ。 腰はがたがたのぐたぐたで。 下半身がだるくて仕方ない。 「抜いてあげるよ」 「い、いい、いいです!」 「いいんだ。ふーん、じゃあ、遠慮なく」 「‥‥‥ちょ‥‥‥ま‥‥‥あ‥‥‥」 ばさり、と、布団が、完全に、横にどけられた。 そして、素晴らしい素早さで、寝間着も下着も下ろされる。 さらには、当たり前のように、ぱくりとくわえられて‥‥。 イルカは、もう、本当に、どうしたら良いのか分からない。 けれど、本当に、困るのは。 困ってしまうのは。 「‥‥‥大丈夫、一回抜くだけだから。すっきりしたら、良い子で、ねんねしていてね。ちゃんとお休みの連絡しておいたから、なにも心配しなくていいよ」 ちゅっ。 ちゅちゅっ。 聞きたくない音が下肢から響く。 なにをされたかなんて見なくても分かる。 昨晩と同じように、イルカのモノに、キスしているのだ。 上忍が。 はたけカカシが。 里の誇りが。 嬉しそうに。 美味しそうに。 --------ううううううう。 信じられない。 嘘みたいだった。 いまさらだけど、イルカは、なにもかもが夢であることを願う。けれど、穏やかな低い声が、逃げることを許してくれない。 「好き。大好き。愛してる。‥‥‥早く、俺のこと、好きになってね」 祈るような声が。 イルカの心を引きずり回す。 振り回す。 染み込んでいく。 --------好き。 それは、分からない。 けれど、イルカは、自分を知っている。 自分でも、本当に、融通の利かない頑固者だと思う。 たとえ階級が上の者でも。 本当に嫌ならば、拒絶するだろう。 それこそ死にものぐるいで。 なのに。 できない。 信じたくないけれど、認めたくないけれど、体は、もう、とっくに陥落している。 気持ちよい。 もっと触ってほしい、と。 けれど、まだ。 --------スキ。 気持ちが、一緒なのかどうかが分からない。 流されているだけな気がする。 強烈すぎる快楽に振り回されているだけな気がする。 「‥‥‥ん‥‥‥あ‥‥‥ああっっっ!」 腰がとろけてしまう快楽は、あまりにも、強すぎて。 頭の中を、ぐちゃぐちゃにしていく。 だから、それに、惑わされている気がしてしまう。 「‥‥‥ふふ、かーわいい。流石に、今日は、薄いね」 そして、この、声も、反則だと思う。 この、顔も。 この、手も。 なにもかもが、狡くて。 気持ちよすぎて。 惑わされていく気がする。 信じてはいけないと思うのに。 「さ、目を閉じて。ねんねして下さいね。‥‥‥お昼は、もっと美味しいもの食べさせてあげますから、楽しみにしててくださいね」 けれど、声が、顔が、手が、気配が、信じられないほどに優しくて、暖かくて。 イルカは、本当に、困っていた。 --------もしかしたら‥‥‥。 信じることはまだできない。 けれど、昨晩のあの姿を思い出すと、もしかしたら、と、思ってしまうのを、止められない。 優しいだけなら。 穏やかなだけなら。 ここまで心を揺るがされることはなかっただろう。 けれど、見てしまったから。 散々に振り回されてしまったから。 --------些細な勘違いで暴走する怖い姿を。 --------余裕のない顔を。 見てしまったから。 心が震える。 引きずられる。 振り回される。 けれど、まだ‥‥‥‥‥‥。 「あ、桃。‥‥‥いま、食べます?」 「‥‥‥あと‥‥‥が‥‥‥いいです」 「はい。じゃあ、おやすみなさい」 めくられた布団が戻されて、布団ごと抱き締められて、イルカは、目を閉じる。 もう、本当に、眠くてだるくて仕方なかった。 そして、また、声を聞く。 困ってしまう声を。 「‥‥‥早く、俺のことを好きになって‥‥‥」 それは、本当に、まだ、分からない。 だから、いまは、なにも返す言葉はない。 けれど、抱き締められて、安堵を感じてしまっては、確かに、なにかが、胸の内にあることを、諦めと共に受け入れるしかなかった。 嫌だ、と、拒絶することができないほどに。 与えられるすべてが恐ろしいのにはねつけることができないほどに。 恐ろしく優しい男が、内側に染み込んでいることを。 「‥‥‥お願い。ひどいことさせないでね」 --------ああ。 恐ろしい言葉なのに縋るような響きが、胸を震わせる。 そして、予感がした。 必死に守っていた、砦が、跡形もなく壊されるような予感が。 きっと、その日は、もう、近い。 けれど、もう少し。 もう少しだけ。 「‥‥‥大丈夫。ずっと側にいますよ。安心して寝て下さいね」 もう少しだけ。 どうか。 このままで。 居させて下さい、と、願いながら、イルカは眠りに落ちた。 そうして、心地よいぬるま湯に包まれて泳ぐ夢を見た。
青と銀の海で。 赤い月を見上げて。 絶対の安心に包まれて。 なにも恐れることなく。 不安も怯えも遠く。 ただ、心地よい暖かさに包まれて。 泳ぐ夢を見た。
end
|
●地図●
menuに戻る。