kemono

 

 

 

 

 

 のしかかる獣の重みが心を潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獣の理

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一点の穢れなき黄金色、とは、単なる夢幻であったのか。

 それとも、変質させてしまったのか。

 膝に縋り付き、うっとりと目を閉じる獣を見下ろして、陽子は、かつての姿を思い起こそうと試みた。

 冷ややかな眼差し。

 凛とした背中。

 主である陽子をさえ憂鬱にさせた重い溜息。

 それらは、鮮やかに、簡単に、蘇った。

 だが、その姿と、いま、手元で喉を鳴らす獣の姿を、イコールで結ぶのはひどく難しいことだった。思わず、吐息が漏れるほどに、難しいことだった。

「‥‥‥っっ」

 吐息を吐き出した途端、弛緩していた獣の身体が、びくん、と、跳ねた。

 しまった、と、陽子は心中で舌打ちする。

 恐る恐る見上げる眼差しに恐れが含まれていることに気が付けば、なおさらに、自分の迂闊さが憎らしかった。

「‥‥‥大丈夫だ」

 なるべく優しい声で宥めながら、その言葉の重みのなさに、陽子は、心中で自嘲する。なにが大丈夫なのか、と、叫びたくなる。だが、それら一切は、いま、陽子だけに縋りつく獣に伝えるべきことではない。

 それは、もう、國の支えとなるべき台輔ではないのだから。

「‥‥‥大丈夫だ。大丈夫。どこにもいかない。おまえの側にいる。私はおまえの半身だ。なにも心配することはない」

 重ねた言葉に安堵したのか、それとも、逃げたのか。

 黄金色の美しい壊れた獣は目を閉じた。

 そうして、静かに、微かな、寝息が聞こえ始める。

 間近に居なければ本当に分からない微かな生きている音が。

「‥‥‥大丈夫だ」

 その音が聞こえることに安堵しながら、陽子も、また、目を閉じた。

--------どうしてこんなことになったのか。

 いまさらな問いを押しつぶし、溢れそうになる涙を、ごまかすように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

                               

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