愛を囁くケダモノ

 

 

 

 

 

「あなたを、愛しています」

 アカデミーからの帰り道、イルカは、唐突に、そんなことを告げられた。

 告げたのは、銀髪の上忍、はたけカカシだった。

「あなただけを、愛しています」

 久しぶりに早くに帰れそうで喜んでいたのに、と、イルカは、心中で吐息を吐き出した。そうして、逃げたいな、と、切実に願った。

「大好き。あなただけが大好き」

 イルカの気持ちなど知らず、誉れ高き上忍は、ただ、愛を囁く。

 だが、イルカは、知っている。もう、騙されない。いや、騙されたいけれど、騙されない。

 これは、ケダモノだと。

 言葉の通じない、人の心を知らぬケダモノだと。

「愛しています。だから、いいよね」

 赤々と燃え上がる夕日を浴びて、ケダモノは、笑った。

 唯一晒されている片目を、撓ませて、嬉しそうに。

(‥‥‥ああ)

 イルカは、心中で、諦めの吐息を吐き出した。そうして、いまこの道に人が居ないのは、本当に、偶然だろうかと、そんな、どうでも良いことを頭の片隅で考えた。

(‥‥‥この人を、怖れて、誰もが、逃げたのでは‥‥‥ないのだろうか)

 本当に、どうでも良いことだった。それが、真実であっても、イルカには、まったく意味がないことだった。なぜなら、誰が逃げても、逃げられても、イルカだけは、逃げられないからだ。

 どうして、イルカを選んだのかは、分からない。

 だが、はたけカカシは、確かに、もう、選んでいた。

「あなたを、愛しています」

 心が伴わない愛を囁いて、それを免罪に、貪る相手として、イルカを。

 だから、どう足掻いても、逃げられない。

「だから、今日は、いいよね。好きなことをしても」

 今日は、なにをされるのだろうか、と、イルカは、怯えた。だが、抵抗も拒絶もしなかった。そんな素振りを欠片でも見せたら、とても酷い目に遭うからだ。

「‥‥‥そうだ。今日は、あの薬を使ってあげる」

 イルカは、伸びてくる腕に逆らうことなく、掴まった。そうして、強い力で抱き締められて、目を閉じた。

(‥‥‥いつまでこんなことが続くんだろう)

「愛しているから、たくさん、塗ってあげるね」

 どの薬のことだろうか、と、イルカはぼんやりと思った。諦めて、なにもかもを放棄しながら、それでも、あの薬で無ければいいな、と、思った。

 どの薬も嫌だが、イルカが一番嫌なのは、理性が残る薬だった。

 理性が残っているのに、快楽に狂って、忘れることもできない。その薬が、一番いやだった。

(‥‥‥早く、終われ‥‥‥)

「愛しているから、たくさん、鳴かせてあげるね」

 人の心が分からないケダモノが、なにかを言っていた。

 意味のない言葉を、繰り返していた。

 それを聞きながら、イルカは、なにもかもを諦めて、ただ、早く、時間が過ぎることだけを祈った。

 

 

     ※

 

 

 アイシテイル。

 その言葉を、カカシは、理解していなかった。

 だが、誰もがその言葉を聞きたがったから、イルカも喜ぶだろうと思って、いつも、口にしていた。

 だが、カカシがいま一番気に入っている玩具は、その言葉を聞いても、少しも嬉しそうな顔をしなかった。つまらなかった。だが、そんなちょっと変わったところも気に入っていた。

 それに、玩具がどう思おうと、本当は、どうでもいい。

 アイシテイル。

 その言葉の意味を、カカシは、理解していない。理解しようとも思わない。

 生温い世界しか知らない生き物ならば、その言葉の意味を、理解して、信じることもできるのかもしれない。だが、カカシには、無理だ。

 アイシテイル。

 けれど、その使い勝手の良さは、良く知っていた。そう囁けば、嬉しがって言うことを聞く奴らがたくさん居て、そう囁けば、多少の無理も見逃して貰えることを。

『‥‥‥あんまりイルカを苛めるんじゃないぞ』

 お節介な熊も。

『だって、愛しているんだ』

 簡単に押し黙った。

 馬鹿だなあ、と、思う。おまえ本当に上忍か、とも、思った。けれど、便利で、良いことだった。邪魔はされない方がいいのだから。カカシは、イルカで、たくさん遊びたい。気に入った玩具で、たくさん、遊びたいのだから。

「‥‥‥ひぃ‥‥‥」

 アカデミーからの帰り道に掴まえた玩具が、鳴いていた。

 連れ込んだカカシの隠れ家の中で、日に焼けていない白い尻を、振りながら。

 その尻に齧り付いてやりながら、カカシは、楽しいな、と、思った。

 この玩具で遊ぶのは、本当に、楽しいな、と。

「‥‥‥ひ‥‥‥ひ‥‥‥ひぃ‥‥‥」

 揺れる尻の狭間からは、棒が、突き出していた。カカシが、淫乱な後ろの口に、突っ込んでやった玩具だった。

 極太で、いぼいぼがたくさん付いていて、ピンク色で、お気に入りの玩具だった。後ろの口に突っ込むと、取っ手の所の紐が尻尾みたいに見えて、可愛いから、気に入っていた。

「‥‥‥‥‥‥ひぃっ‥‥‥あっ‥‥‥」

 揺れる尻が可愛いくて、また、突っ込みたくなった。だから、カカシは、ピンクの玩具を抜き取った。そして、ぱくぱくと喘ぐ淫乱な後ろの口に、カカシのモノをずぶりと突っ込んだ。

 イルカは、可愛い声で、鳴いた。

 気持ちがよいと鳴いた。

 その声は、好きかもしれない、と、思った。

 でも、イルカ自身が好きかどうかは、良く分からなかった。

 ただ、いつまでも、こうして、遊んでやりたいから、カカシは、いつもの台詞を口にした。

「イルカ先生、愛しているよ」