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それは、信じられないほどに‥‥‥。
little little little
麻衣が暴走した。 それはいつものことだった。 ましてや、依頼人の娘、それも小さな少女の為ならば、まさしく、火の中、水の中‥‥‥という感じである。 さらにはその子が可愛くて、麻衣になつきまくっていたら‥‥‥。 止めるだけ無駄。 考えるだけ無駄。 さくさく気合いを入れて解決するのが一番である。 しかし、麻衣は、暴走した。 その結果が、いま、滝川たちの目の前に鎮座ましまししていた。 「‥‥‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥‥」 「‥‥‥‥‥‥」 滝川たちは、途方に暮れていた。 けれど、同時に、堪えてもいた。 麻衣は、膨れている。 先ほど、みっちり、しっかり、口の悪い上司さまさまに怒られたばかりなのである。反論したが言い負かされて、もう、ぷくぷくに膨れていた。 あと少しつつけば泣き出しそうな麻衣に‥‥‥。 流石のナルも、それ以上は、言わない。 --------言えなかった。 なぜならば、麻衣は‥‥‥‥‥‥。 「あああっっっ、もう、我慢できんっっっっっ」 滝川が切れた。 そして恐ろしいことにナルの目の前から麻衣をひっさらい、抱え上げた。 ひいいいいい、といつもならば心中で悲鳴を上げる面々は、本日だけは、滝川の行動を止めようともしない。むしろ、その無謀さを、大喜びして、滝川と滝川に抱えられた麻衣を囲んだ。 そして、綾子と真砂子は、絶叫する。 「可愛いっっっ」 「可愛いですわっっっっ」 ぷくぷくほっぺをつつく二人は、満面の笑みを浮かべている。 ほっぺをつつかれた麻衣は、目を、瞬いている。 「‥‥‥ど、どうしゅたの?」 しかし問いかけは舌が回ってなかった。 途端、周囲は、さらに、テンションを上げた。 異様な団体だった。 異常な感じだった。 だが、その真ん中で目を丸くしている愛らしい小さな少女を見れば、誰もが、納得してくれただろう。 可愛いのだ。 あまりにも可愛いのだ。 ぶかぶかの服にくるまれて目を丸くしている小さな少女は、あまりにも可愛すぎた。 「かわええっっっっ」 「ちょっと、ぼーず、一人占めしてるんじゃないわよっっっ」 「麻衣、こちらにいらっしゃいませ」 ナルの制止を振り切り、依頼人の娘を庇った挙げ句、麻衣は、代わりに呪いを受けてしまった。 それは、とてもとてもやばいことである。 だが、それを‥‥‥問題にしている者は一人も居なかった。 そう‥‥‥誰も‥‥‥。 「‥‥‥‥‥‥」 長い長い吐息が、部屋の片隅で吐き出された。 そして、黒衣の青年は、背を向けた。 呆れ果てたのかもしれない。 だが、隣のリンは、気付いてしまった。 彼の肩が僅かに震えていることに。 そして、口元を抑えたことに。 --------見なかったことにしよう。 リンは、そう決めた。 そして、自らも、危険な存在から視線を逸らす。 見つめ続けていたら‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
--------ぱふん。
折角の努力を無にする気の抜けるような音と共に、なにかが、リンにぶつかった。背中に、ぱふん、と。 「髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃった〜」 うええん、と泣き言を言うのは、小さな谷山麻衣。 居場所はリンの後ろ。 なぜ、どうして、とリンは思う。 なぜ、こっちに来るんですか、と。 だが、冷静に考えれば当然である。 浮かれていないのは二人だけで、一人は、先ほどまで、叱っていた人物である。 と、なれば、逃げ場はもう一人しか居ないわけで‥‥‥。 --------ぞくり。 リンは、背筋の悪寒を感じた途端、小さな麻衣を抱え上げて‥‥‥‥‥‥。 「‥‥‥ふえっっ?」 ナルに進呈していた。 ナルに抱え上げられることになった麻衣は、目を丸くしている。 「にゃ、にゃんで?」 また、舌が回っていない。 その姿を見てナルは‥‥‥。 リンは、視線を逸らした。 見なかったことにした。 そして、滝川たちも、視線を、逸らした。 混乱している麻衣が気付いていないのは、ある意味、幸運だったかもしれない。 「‥‥‥リン」 「はい、なんでしょう」 「後は任せて大丈夫だな」 「‥‥‥はい」 取り繕ったような静かな声に、リンは、ふかーく、頷いた。 「僕は、依頼人の所に行って来る」 「はい、分かりました」 異様な緊張感の中、ナルは、今度こそ、背中を向けた。 そして、麻衣を抱えたまま、すたすたと歩き去った。 その背中を見送った後、先ほどまで、浮かれていた者たちは、部屋の隅に集まり、こそこそこそこそ話し合う。 「‥‥‥‥‥‥あれ、見たか?」 「‥‥‥‥‥‥見ちゃったわよ」 「‥‥‥‥‥‥見たくありませんでしたわ」 「‥‥‥‥‥‥あれぞ眼福と言うべきなんでしょうが‥‥‥」 リンは、なにも、聞かなかった。 聞かなかったことにした。 見なかったことにした。 笑み崩れる‥‥‥。 --------ありえない。 ありえないのだと、自らに言い聞かせて、リンは、ひたすら、モニターを見つめた。そして、早く、この調査が終わることを祈ったのだった。
彼らは、知らない。 依頼人の所にナルが赴いたのは、麻衣の、服を借りる為だったことを。 彼らは、知っている。 依頼人の服の趣味が、ちょっとだけ、フリル好きが凄いことを。 そんな依頼人が娘よりちょっと小さくて愛らしい少女を見たら‥‥‥。 「きゃあっっっっ!かわいいっっっ!」 暴走することなど分かり切っていた。 愛らしさと危険さが倍増したみに谷山麻衣帰還まであと少し。 元に戻った時どうするんだ、という突っ込みを入れられるのかは定かではない。
どちらにせよ、分かっていることは、ただ一つ。 尋常ならざる早さで調査が終了する‥‥‥それだけであった‥‥‥。
end
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