sss 6

 

 

 

 それは、信じられないほどに‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 little little little

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻衣が暴走した。

 それはいつものことだった。

 ましてや、依頼人の娘、それも小さな少女の為ならば、まさしく、火の中、水の中‥‥‥という感じである。

 さらにはその子が可愛くて、麻衣になつきまくっていたら‥‥‥。

 止めるだけ無駄。

 考えるだけ無駄。

 さくさく気合いを入れて解決するのが一番である。

 しかし、麻衣は、暴走した。

 その結果が、いま、滝川たちの目の前に鎮座ましまししていた。

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

 滝川たちは、途方に暮れていた。

 けれど、同時に、堪えてもいた。

 麻衣は、膨れている。

 先ほど、みっちり、しっかり、口の悪い上司さまさまに怒られたばかりなのである。反論したが言い負かされて、もう、ぷくぷくに膨れていた。

 あと少しつつけば泣き出しそうな麻衣に‥‥‥。

 流石のナルも、それ以上は、言わない。

--------言えなかった。

 なぜならば、麻衣は‥‥‥‥‥‥。

「あああっっっ、もう、我慢できんっっっっっ」

 滝川が切れた。

 そして恐ろしいことにナルの目の前から麻衣をひっさらい、抱え上げた。

 ひいいいいい、といつもならば心中で悲鳴を上げる面々は、本日だけは、滝川の行動を止めようともしない。むしろ、その無謀さを、大喜びして、滝川と滝川に抱えられた麻衣を囲んだ。

 そして、綾子と真砂子は、絶叫する。

「可愛いっっっ」

「可愛いですわっっっっ」

 ぷくぷくほっぺをつつく二人は、満面の笑みを浮かべている。

 ほっぺをつつかれた麻衣は、目を、瞬いている。

「‥‥‥ど、どうしゅたの?」

 しかし問いかけは舌が回ってなかった。

 途端、周囲は、さらに、テンションを上げた。

 異様な団体だった。

 異常な感じだった。

 だが、その真ん中で目を丸くしている愛らしい小さな少女を見れば、誰もが、納得してくれただろう。

 可愛いのだ。

 あまりにも可愛いのだ。

 ぶかぶかの服にくるまれて目を丸くしている小さな少女は、あまりにも可愛すぎた。

「かわええっっっっ」

「ちょっと、ぼーず、一人占めしてるんじゃないわよっっっ」

「麻衣、こちらにいらっしゃいませ」

 ナルの制止を振り切り、依頼人の娘を庇った挙げ句、麻衣は、代わりに呪いを受けてしまった。

 それは、とてもとてもやばいことである。

 だが、それを‥‥‥問題にしている者は一人も居なかった。

 そう‥‥‥誰も‥‥‥。

「‥‥‥‥‥‥」

 長い長い吐息が、部屋の片隅で吐き出された。

 そして、黒衣の青年は、背を向けた。

 呆れ果てたのかもしれない。

 だが、隣のリンは、気付いてしまった。

 彼の肩が僅かに震えていることに。

 そして、口元を抑えたことに。

--------見なかったことにしよう。

 リンは、そう決めた。

 そして、自らも、危険な存在から視線を逸らす。

 見つめ続けていたら‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 

 

 

 

 

--------ぱふん。

 

 

 

 

 折角の努力を無にする気の抜けるような音と共に、なにかが、リンにぶつかった。背中に、ぱふん、と。

「髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃった〜」

 うええん、と泣き言を言うのは、小さな谷山麻衣。

 居場所はリンの後ろ。

 なぜ、どうして、とリンは思う。

 なぜ、こっちに来るんですか、と。

 だが、冷静に考えれば当然である。

 浮かれていないのは二人だけで、一人は、先ほどまで、叱っていた人物である。

 と、なれば、逃げ場はもう一人しか居ないわけで‥‥‥。

--------ぞくり。

 リンは、背筋の悪寒を感じた途端、小さな麻衣を抱え上げて‥‥‥‥‥‥。

「‥‥‥ふえっっ?」

 ナルに進呈していた。

 ナルに抱え上げられることになった麻衣は、目を丸くしている。

「にゃ、にゃんで?」

 また、舌が回っていない。

 その姿を見てナルは‥‥‥。

 リンは、視線を逸らした。

 見なかったことにした。

 そして、滝川たちも、視線を、逸らした。

 混乱している麻衣が気付いていないのは、ある意味、幸運だったかもしれない。

「‥‥‥リン」

「はい、なんでしょう」

「後は任せて大丈夫だな」

「‥‥‥はい」

 取り繕ったような静かな声に、リンは、ふかーく、頷いた。

「僕は、依頼人の所に行って来る」

「はい、分かりました」

 異様な緊張感の中、ナルは、今度こそ、背中を向けた。

 そして、麻衣を抱えたまま、すたすたと歩き去った。

 その背中を見送った後、先ほどまで、浮かれていた者たちは、部屋の隅に集まり、こそこそこそこそ話し合う。

「‥‥‥‥‥‥あれ、見たか?」

「‥‥‥‥‥‥見ちゃったわよ」

「‥‥‥‥‥‥見たくありませんでしたわ」

「‥‥‥‥‥‥あれぞ眼福と言うべきなんでしょうが‥‥‥」

 リンは、なにも、聞かなかった。

 聞かなかったことにした。

 見なかったことにした。

 笑み崩れる‥‥‥。

--------ありえない。

 ありえないのだと、自らに言い聞かせて、リンは、ひたすら、モニターを見つめた。そして、早く、この調査が終わることを祈ったのだった。

 

 

 彼らは、知らない。

 依頼人の所にナルが赴いたのは、麻衣の、服を借りる為だったことを。

 彼らは、知っている。

 依頼人の服の趣味が、ちょっとだけ、フリル好きが凄いことを。

 そんな依頼人が娘よりちょっと小さくて愛らしい少女を見たら‥‥‥。

「きゃあっっっっ!かわいいっっっ!」

 暴走することなど分かり切っていた。

 愛らしさと危険さが倍増したみに谷山麻衣帰還まであと少し。

 元に戻った時どうするんだ、という突っ込みを入れられるのかは定かではない。

 

 

 

 どちらにせよ、分かっていることは、ただ一つ。

 尋常ならざる早さで調査が終了する‥‥‥それだけであった‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

end

 

 

                    

                     →novelmenu