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矛盾
好き、だと思う。 でも、嫌いだと、言ってしまう。 その時は、本当に、嫌いだと思う。 と、言うことは、私は、その時、ナルが嫌いなんだろうか。
‥‥‥‥‥‥でも、好きなんだけどな。
つい5分前、嫌い、と言ったばかりだけど。 お腹の底は、ぐるぐるしてるけど。 とっとと休憩しやがれ、と思うけど。
‥‥‥‥‥‥うん、たぶん、好きだと思う。
思うけど、嫌いな気もする。 だって、見てると、むかむかするし。 あ、でも、顔を上げると、どきどきするし。 ああ、でも、それって、毒舌にどきどきしてるのかな。 だったら、どうしよう‥‥‥。
「‥‥‥麻衣」 「なに?」
動揺を抑えつつ、普通に返したはず。 でも、その、深い吐息はなんか、やな感じ。
「‥‥‥思考が漏れてる」 「へ?」 「くだらないことを悩むな」 「ええっっっ」
思考、思考が漏れるってどんな感じ? その辺、漂っているとか? うわ、やだやだ、そんなの困る。 隠し事できないじゃない。 こないだ、ぼーさんと遊園地行ったこととか! 安原さんと、水族館行ったこととか! リンさんにお昼奢って貰ったこととか! ばれたら、無茶苦茶怒られる〜。 でもでも、遊園地は、ずっと前からの約束だし。 水族館は、おねだりしたけど一緒に行ってくれなかったし。 お昼ご飯を奢ってくれたのは、めえめえ私が泣いてたからだし! 泣かせたのナルだから、うん、悪くない。 悪くないと思う‥‥‥たぶん。
「‥‥‥麻衣」 「はいいい?」 「隠し事が多いな、おまえは」 「‥‥‥」
先ほど取り上げようとした本が、ぱたん、と閉じられた。 よ、読んでて、いいのに〜。 いまなら、もう、絶対、邪魔しないのに〜。 あ、そんなことより、さっきの疑問が解けてない。 私は、ナルが好きなのかな、嫌いなのかな。
「教えてやろうか」
底意地の悪そうな笑みは、嫌い‥‥‥。 でも、頬に触れる優しい手は好き‥‥‥。
「麻衣は、僕が好きだ」
断定するな。 根拠がないぞ、根拠が。
「根拠なら、あるさ」
ナルは、笑って、キスした。
「気持ちいいだろ?」
‥‥‥やっぱり、嫌いかもしれない。 だって、狡いし。 でも、やっぱり、好きかもしれない。 だって、キスが、すごく、気持ちいい。 認めるのも、悔しいけど。
※
‥‥‥その後、判明した、驚愕の真実も、判定基準の一つになるかもしれない。 どうやら、私は、ナルに構って貰えなくて寂しくなると、独り言が増えるらしい。しかも、変なことにこだわって、マイナス思考に偏って、泣きそうな顔をしているらしい‥‥‥‥‥‥。 でもね、でも、そんなの観察している暇があったら、構ってくれればいいじゃないか、と思う。
だから、やっぱり、嫌い。 でも、好き。 好きで、嫌い。 嫌いで、好き。 大好きで、大嫌い。 大嫌いで、大好き。
つまり、私にとってのナルとは、矛盾そのもの。 定義できない存在、ということらしい。 そんな厄介な恋人ってやだな‥‥‥というのは内緒。 滅多に遊びに連れてってくれないし。 他の人と遊びに行くと、怒るし。 我侭だよね、絶対。
「‥‥‥麻衣」 「はあい?」 「‥‥‥目の前で日記を書く理由は?」 「いやがらせ」 「‥‥‥‥‥‥」 「それと、ひとり言対策」
それと、ちゃんと構わないと、浮気するよ、という警告だよ。 ちゃんと分かってね? 大好きなままで居させてね? 天秤の傾きは、いつだって、あなた次第なんだから。
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