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運命を、愛そう、と、彼は、決めた。 だが、彼女は‥‥‥。
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運命だよ、と、彼女は、彼の申し出を断った。 まるで、それが、当たり前で、当然のことのように。 「‥‥‥無理だよ。だって、ナルと、私は、違いすぎるもの」 それは、個々人の資質という意味ではないことは、語らずとも分かった。 「‥‥‥無理だよ。私には‥‥‥無理」 彼女が怯えて拒絶しているのは、彼自身ではなく、彼の環境、属する階級だった。一度本国へ連れて行ったのが、まずかったのだと、今更ながらに彼は思い知った。本国の、この国にはない階級社会の絶対的な差違は、彼女には、日本というある意味特殊な国で育った彼女には、受け入れがたいものだったのだと。 「‥‥‥私、馴染めないよ」 その通りだとナルは思った。 だが、それはそれで構わない、とも、思っていた。さらに、馴染む必要などないのだ、とも。 彼女は彼女で在ればいい。 そのままで隣に居ればいい。 ナルが望むのは、それだけだった。 けれど、それをどう伝えれば彼女に伝わるのかが、ナルには分からなかった。どうすれば、彼女の後ろ向きな拒絶を覆せるかが、分からなかった。 だが、一つだけ、決まっていた。 「無理でも、連れて行く」 「‥‥‥‥‥‥え?」 ナルの申し出を断り俯いていた彼女、麻衣は、顔を上げた。なにを言われたのか良く分からないという顔をしていた。理解できません、と、雄弁に顔が語っていた。 「無理でも、構わない。連れて行くと決めている」 「‥‥‥‥‥‥」 「外と馴染めないなら外に出なくてもいい」 「‥‥‥‥‥‥」 「僕の隣だけに居ればいい」 「‥‥‥‥‥‥」 すでに決めていたこと、いや、決まっていることを告げると、麻衣は、ぐしゃり、と、崩れ落ちた。そして、床に蹲って、唸り始めた。 「‥‥‥‥‥‥ひ‥‥‥ひどい‥‥‥信じられない‥‥‥ひ、ひとでなしがっっっ。ナチュラルな、自覚無しの、人でなしがっっっっ、ここにっっっ」 人でなしと罵りながら、麻衣は、蹲ったままでいた。人でなしだと分かっているのに、逃げなかった。それはとてもとても愚かなことだった。 だから、ナルは、麻衣を、捕まえた。 無邪気で残酷な子供が蝶を捕まえるようにして、捕まえた蝶がどうなるかなど考えずに、ただ、欲しいからと捕まえた。 「‥‥‥諦めろ」 「‥‥‥‥‥‥でも」 「どう足掻いても逃げられない。逃げようと足掻くだけ無意味だ」 「‥‥‥‥‥‥ひどいよね。私、きっと、すごく、大変だよ」 「そうだな。麻衣には、上流階級の流儀は似合わない。上に立つ者の傲慢さと他者に対する無関心さを、おまえは、永遠に、身につけられないだろうな」 「‥‥‥‥‥‥ひとでなし」 ナルを罵る麻衣をナルは抱き締めた。 そして、彼が決めた彼の運命を、彼女にとっては暖かな居心地の良い場所から、浚う為だけに、抱え上げた。
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