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 願うのは、いつも‥‥‥。

 君の‥‥‥。

 君たちの‥‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Pure-trick=純粋な企み

 

 

 

 

 

 

 

 

 視線が、今日は、ちょっと痛い。

 明るい笑みも、柔らかな声も、なにも変わらないのに。

 ちくちく、なんだか、突き刺さるよう。

 真っ黒な闇の中、ジーンは、ほんの少し、首を傾げた。

 そうして、いつもと同じ、けれど、いつもとほんの少し違う少女と、目線を合わせた。

「麻衣、僕、どこか、変かな?」

「え?」

「僕はいつもどおりのつもりだけど‥‥‥どこかおかしい?」

 闇の中、ただ一人で過ごすから、ジーンには、自分がどうなっているのか、分からない。あるいは知らない内に、変質しているのかもしれない。

--------考えることも、辛いことだけど。

 けれど、それを知らないままで居るよりは、知っておきたい。

「‥‥‥いつものジーンだよ?」

「でも、麻衣、今日は、変だよね?」

「‥‥‥う」

「麻衣、隠さないで。僕は、平気だから」

 こちらに残った段階で、気が付いた時点で、予測はしていた。

 霊は変質する。

 どう足掻いても。

 あるいはそれを拒む為に、眠ってしまうのかもしれないが、それでも、死んでいても、時間は過ぎていく。ならば、変わらないわけがない。

「‥‥‥え、えと、えと、えええええと」

 しかし、困ってます、と顔に大書きしてある少女の様子を見る限り、なんだか、違うようだ。真っ赤な顔は、困っていると言うよりは、恥ずかしい、という感じで‥‥‥‥‥‥。

(まさか)

 なにかあったのだろうか。

 あの、研究馬鹿と!

 ジーンは、心中で、喜びの声を上げた。

 目の前の少女と、残した片割れ‥‥‥この二人は、ともかく、ともかく、鈍い。

 特に、目の前の少女は。

 鈍くて正直ではない片割れでさえ、最近は、自分の感情に気が付いている。

 そして様々な行動を起こしているというのに‥‥‥。

 少女は、まったく、ちっとも、気付かない。

 恐ろしいほどの鈍さである。

--------お願いだから、気が付いてあげて〜。

 鏡の中で、そう叫んだことも、何度かある。

 それに、とっても困ったことに、少女はもてるのだ。

 本人はまったく気が付いていないが、真剣に、もてるのだ。

--------浚われたら、困る。

 大切な大切な二人には、幸せになって貰いたい。

 その為には、特に片割れには、少女が必要なのだ。

 だから、寂しいとか、そんなのは、横に置いておいて、ともかく、さっさとくっついて欲しいのだ!

「‥‥‥麻衣、僕には、言えないことなの?」

 未だに唸っている少女に、ジーンは、悲しげな顔をして問い掛ける。

 その顔がどれだけ少女に効果があるか、自覚して、使っているのだ。

 そして、心中では‥‥‥。

(‥‥‥知りたい。ものすごーく知りたい。さあさあ、早く、はーなーしーてー)

 好奇心の塊と化して、叫んでいた。

 だが、そんなことは少女には分からない。正直で素直な少女は、ジーンの思惑通り、困って、悩んで‥‥‥しばらく唸ってから、ぼそぼそと話し出した。

「‥‥‥‥‥‥」

 話を聞いたジーンは、ちょっとだけ、泣きそうだった。

 少女は、まだまだ、まだまだ、お子さまだった。

 友達がキスを経験済みだと知って、驚くほどに。

 ついでに、キスが挨拶の國の人間の顔を見て、そのことを思い出して、動揺してしまうほどに。

--------あまりにも、哀しいほど、お子さまだった。

 これからも片割れは苦労するだろう。

 いや、それどころか、二人が付き合うまで、一体、どれだけの時間が掛かるのか検討もつかない。

--------それは、とっても、困る。

 よし、とジーンは気合いを込めた。

 このままではいけない。

 絶対に。

「‥‥‥ねえ、麻衣。じゃあ、ちょっと、試してみようか?」

「へ?」

 少女が言葉を理解する前に、ジーンは、頬にキスを落とした。

 途端、少女が、かちこちに固まる。

 抵抗しないのを良いことに、ジーンは、また、頬にキスを落とす。

 頬に、額に、柔らかな、キスを。

「本当は、もっと教えてあげたいけど、ナルに怒られるから‥‥‥」

 真っ赤な顔で絶句している少女の耳元で、ジーンは、ゆっくりと、囁く。

 少女が、片割れの思いに気が付くように、と願いを込めて。

「恋人のキスは、ナルに教えて貰ってね」

 目を見開く少女がなにかを言う前に、ジーンは、少女を、帰した。

 闇の向こうへ。

 光ある場所へ。

 片割れの居る所へ。

「‥‥‥早く気が付いてあげてね」

 そして、闇の中から、願いを告げる。

 本当は帰したくないと叫ぶ心を、闇に隠して。

 ただ、ただ、二人の幸いを願った。

 

 

 

 了

 

   

                    

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