sss 16
秘密は秘密のままで。
little little little-4
ぴたっっっ。 静止した。 どうしてかなぜか分からないが止まった。 背後のオーラもなぜか消えた。 異様なほどに素早く。 そうして、なぜか、博士様は動かない。 「‥‥‥お、おい?」 対峙していたはずの滝川でさえ、ちょっと、びくびくするほどに。 異様なほどに静かだった。 なんというか、衝撃のあまり固まっているような感じだった。 しかし、なにが博士様を固まらせたのか‥‥‥。 誰にも分からなかった。 「‥‥‥どうしたのかしら?」 「‥‥‥分かりませんわ」 誰もが首を傾げた。 途端、 --------びしっっっっ。 空気が割れるような音がした。 そうして、静止した博士様の周囲には、なんだか、やばい、破裂音が‥‥‥。 ついでに、なんか、青白い光が‥‥‥。 ざざざざざざざざっっっっ、と、仲間たちは我先にと逃げ出した。 素晴らしい速さだった。 見事な逃げ足だった。 だが、彼らは、大事なものを忘れていた。 そのことに真っ先に気が付いたのは、一番遠くに逃げていたお父さんだった。 「ま、麻衣っっっ!」 その叫びで、仲間たちは、小さい可愛い子が、取り残されていることに気が付いた。やばい、やばい、やばい、と、皆が、わたわたする。 そして、哀しいほどに一途なお父さんは、無謀な突撃をした。 きょとんとしているみに麻衣を救出するべく、走り込んだ。 --------べしっっっっ。 そして、弾かれた。 容赦なく、吹っ飛んだ。 壁に激突した。 そのままずるずる落ちた。 「‥‥‥」 「‥‥‥」 「‥‥‥」 出遅れたものの飛び出そうとしていた者たちは、固まった。 あまりのことに、動けなかった。 いや、その前に、一体、なにが。 犯人だと思われるのは、青白い光を纏った物騒な博士様のようにも思えるのだが‥‥‥だが、しかし‥‥‥博士様は、潰れたお父さんになど気にしていない。 まだ、固まっている。 どうも違うような感じである。 「‥‥‥えーと、いまのは?」 「なんか居るわね、あそこ」 なんとなく誰もが答えを悟っていた。 分かりたくないけど分かっていた。 そうして、優秀な美少女霊媒は目を凝らして‥‥‥吐息を吐き出した。 ものすごく疲れたような感じで。 「‥‥‥ジーンがいらっしゃいますわ」 ああ、やっぱり、と、他の者たちも吐息を吐き出した。 そうして、優しい穏やかな天使のような、と、聞いていた青年に対する評価を改めていた。いや、そもそもおかしい話なのだ。 あの、博士のお兄さまが。 あの、博士の片割れが。 優しい穏やかな天使のような‥‥‥あり得ない。 いや、あってはならないのだ。 「‥‥‥けっこう、容赦無しみたいねぇ」 「‥‥‥谷山さんを唆す手際は見事でした」 「‥‥‥やはりナルのお兄さん‥‥‥と、いうことかしら」 そうして、お兄さん人物像を語り合う彼らは、見事に現実逃避をしていた。 みに麻衣は助けたい。 だが、弾き飛ばされるのは確実。 それに、まあ、部屋が半壊しようが、どうなろうと、あの二人が側に居て、みに麻衣になにかが起きるわけがない、と、確信していた。 むしろ危ないのは‥‥‥。 「‥‥‥逃げ損ねたのね。可哀想に」 「‥‥‥意外ととろいですよね」 一人、黙々と仕事をしていた真面目なリンであろう。 そして潰れたままぴくりともしない滝川であろう。 さらには‥‥‥。 「‥‥‥あら、もう一つ‥‥‥なにか小さいのがいらっしゃいますわ」 「‥‥‥小さいのって」 「‥‥‥ああ、あれじゃない。ほら、指輪にくっついていた」 「ああ、悪戯好きな精霊さんですか。‥‥‥可哀想に。もう、駄目ですねぇ」 容赦のよの字も存在しない会話は、ばっちりしっかりと小さい存在に届いていた。そして、びるびる震えさせていた。 --------びしっっ。 また、空気が、震えた。 そして、みしみしと軋むような動きで、博士様が動き出した。 ブリザードは背負っていない。 だが、異様な気迫が、そこにはあった。 怒っているわけではないのだが‥‥‥こう、なんというか‥‥‥。 苦渋の決断を下したような‥‥‥。 そんな感じだった。 「‥‥‥‥‥‥麻衣」 そして博士様は、みに麻衣の前にやって来た。 屈み込んで、目線を合わせる。 みに麻衣は、きょとん、としている。 まったく全然分かっていない。 野生の勘はどこに行ったのか。 「‥‥‥なあに?」 「元に戻れ」 「‥‥‥もと?」 「麻衣が元に戻らないと困る」 「‥‥‥こまる?」 「小さなままでは‥‥‥困る」 真剣な表情だった。 真摯な言葉だった。 嘘偽りのない言葉だった。 だが、どうしてそんな言葉を言うのか、仲間たちには分からない。 けれど、きょとんとしていたみに麻衣が‥‥‥。 「‥‥‥泣くな」 きょとんとしたまま涙をこぼす姿を見て、そして、ほんの一瞬浮かんだ、嬉しそうな表情を見て、気が付いた。 自分たちの馬鹿な行動や発言が、麻衣を哀しませていたことに。 「‥‥‥小さくても大きくても僕にとっては麻衣は麻衣だ」 「‥‥‥おっきくても?」 「ああ、どちらでも、変わらず、必要だ」 「‥‥‥‥‥‥」 「けれど、小さいままなのは、不自然だ。だから、元に戻れ」 「‥‥‥‥‥‥」 「戻ってくれ。‥‥‥頼む」 みに麻衣はじいっとナルを見やった。 それから隣を見上げた。 誰も居ないはずの場所を。 けれど、助けを求めるように。 「‥‥‥まい、おっきくなりたい‥‥‥どうしたらいいの?」 答えはない。 少なくとも仲間たちには聞こえない。 だが、麻衣は、うん、と、頷いて、目を閉じて、祈るように囁いた。 「‥‥‥まいはおっきくなりたいです。ほんとうにおっきくなりたいです」 切実な祈りの声を聞いて、仲間たちも祈った。 その当たり前の願いが叶うように。 祈り。 願い。 そうして‥‥‥。
--------ぼふん。
小さくなった時と同じように紫色の微妙な色具合の煙が沸き上がり。 みにみに麻衣は、麻衣に戻った。 途端、歓声が上がった。 そして、部屋の隅では‥‥‥。 「‥‥‥」 ちょっと焦げたリンが、なにも居ないはずの場所を見やっていた。 そして聞きたくない言葉を聞いていた。 『リン、あとはよろしく頼むよ』 頼まれたくない。 だが、断れば、滝川の二の舞間違いなしであろう。 『あんな可愛い子は、さっさと保護しなくちゃ駄目だからね。それに、ナルが煮詰まって暴走する前に、なんとかしないとねー。でも、ナルも、男だったんだねー。あんなにあの言葉が効くとは思わなかったよー』 リンは聞きたくなかった。 本当に聞きたくなかった。 他の者たちと一緒に、純粋に喜んでいたかった。 だが‥‥‥。 『小さいままだとえっちできないもんねー。大問題だよねー』 容赦なく聞こえる声は、耳を塞いでも無駄なのだ。 『それに、麻衣に女の子産んで貰えばみに麻衣もゲットできるしー』 ああああ、たのしみー、と、悶える姿まで見えてしまう自分の能力がいまばかりは哀しくて、リンは、目を伏せた。 そうして、泡を吹いて白目を向いてしかもちょっと焦げている小さな生き物からも、倒れたままぴくりとも動かないお父さん志望からも、意識を逸らした。
かくして、みにみに麻衣事件は終了した。 めでたいことである。 だが、しかし、問題というか野望は残されている。博士様と博士様のお兄さまと仲間たちの野望‥‥‥‥‥。みに麻衣誕生祈願は、果たして叶うのか。 それは‥‥‥まだ、誰にも、分からない。 だが、とにもかくにも、みに麻衣は麻衣に戻って、めでたし、めでたし、と、言うことで。
end? |