sss 15

 

 

 警戒警報が発令された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 little little little-3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ともかく、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめぜったいにだめーだ!」

 だめだめ星人に魂を売ったらしいお父さん希望の滝川は、理性とか危機感とか本能とかもオプションで付け足して売ったらしく、無謀だった。

 そして、邪魔するつもりか貴様ら、と、いう、気迫を漲らせる博士様と対峙していた。はっきり言って無駄。格違い。対峙するだけ時間の無駄。

 ‥‥‥と、滝川以外の面々はさっくりと諦めている。

 むしろ、まあ、それはおいといて、いかに自分が有利な立場に立てるかが問題であったので、その打ち合わせに忙しかった。

「‥‥‥あ、お父さん?ちょっとお願いがあるんだけど」

 綾子お母さまは、なんだか、すでに、書類作成に入りそうだし。

「‥‥‥お姉ちゃん‥‥‥素敵な響きですわ‥」

 真砂子も珍しく壊れ掛けている。

 なんたって可愛いみにみに麻衣が、きれいなおねえちゃん、と、呼んでくれたのだから仕方あるまい。そして、越後屋は、無謀な滝川が玉砕する姿を堪能しようとわくわくしているし、ちょっと我に返った善良な神父は、寒気に負けまいと必死にあらがう哀れな勇者もどきの心配をしていて忙しい。

 そう、またしても、中心でありながらみにみに麻衣は、なんだか、ちょっと、忘れ去られていた。ついでに、そこらに居るらしい浮遊霊も、さらには、今回の騒動である‥‥‥いたずら好きな精霊も。

「‥‥‥みんな、正気に返ったら、首締めだよね」

 ぼそり、と、声が響く。

 その声が聞こえるのは、みにみに麻衣と精霊だけだった。

 そして、当然、首締めの刑になるのは精霊と決まっていた。

 可愛いフリルと可愛いお人形さん大好き奥様がお買い物ついでに古い指輪を買ったら付いて来たおまけもどきの精霊は、みにみに麻衣より小さくてまあ可愛いかなー、と、言え無くもない姿形をしている。ちょっと鼻が長くて、ちょっとつんつんしているけど、まあ、転がしたら可愛いかなーと思う程度には。

 しかし、そんな程度の可愛さでは、みにみに麻衣の至福の可愛さに目が眩んでいる団体は赦してくれないだろう。

 たとえば、みにみに麻衣が、どうして大きくなれないのー、と、素朴な疑問を発するとか。どうして駄目なの、と、目をうるうるさせれば、異様な団体も目が覚めるだろう。

 そうしたら‥‥‥。

 あれだけ堪能してめろめろになったことを棚に上げて‥‥‥。

 てめえ。

 しぶといな。

 まだやるか。

 潰してみじん切りにしてやろうか。

 と、いとも簡単に恐ろしい団体になることは間違いない。

 そして、いたずら好きというかいたずらで終わらせて良いのかという、人体若返りをしでかしてしまった精霊は‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

「‥‥‥とりあえず、実験材料になることは間違いないよねぇ」

 精霊は、ぶるぶる震えた。

 きっと逃げたいだろう。

 どうしてこんな所に来てしまったの俺のばかばか、と、嘆きたいだろう。

 だが、可哀想だが‥‥‥もう遅かった。

 みにみに麻衣の愛らしさにやられているのは‥‥‥。

 異様な団体だけではなくて‥‥‥。

「可愛いものを見せて貰って楽しいけどねぇ。このまんまってのは僕が困るんだよねぇ。ねえ、きっと、君を消したら、元に戻るよねぇ」

 ここにも居た。

 しかもにっこり笑いつつ、逃げ足の早いはずの精霊を、その場に縫い止めてしまう恐ろしい悪霊が。

 さらに恐ろしいのは、そんな恐ろしい冷気は精霊だけをピンポイントで締め上げていて、隣に居るみにみに麻衣には少しも伝わっていないことだろう。

「‥‥‥おにーちゃん‥‥‥おじちゃん‥‥‥怒ってるの?」

「んー。大丈夫だよ。あれはね。じゃれてるだけだから。遊んでいるだけだからね。麻衣はなんにも心配しないでいいからね。僕がちゃんと元に戻してあげるからね。‥‥‥あー可愛いなぁ」

 なでなでとみにみに麻衣を撫でつつ、恐怖の悪霊はいたずら精霊を目線で、脅した。みしみし背骨が軋むような気迫で締め上げた。

 博士の実験前に精霊は死にそうだった。

 もう瀕死だった。

 もう駄目そうだった。

 しかもなんか泡吹いている。

「‥‥‥んー、しぶといなぁ。まあ、分かるけどねー。元に戻したくないんだろ?うんうん、良くわかるよー。でもね、それじゃあ、困るんだよねー。このままだとナルが変態になっちゃうしー。僕の計画台無しだしー」

「‥‥‥」

 精霊の顔色は青を通り越して白を通り越して土毛色だった。

 しかし、びしばし締め上げる気迫はちっとも揺らぎない。

「‥‥‥チ‥‥‥チガウ‥‥‥」

 土毛色の精霊は、微かな微かな声で告げた。

 いや、あるいは、それは、最後の遺言だったかもしれない。

 だって、もう、白目まで剥いている。

「‥‥‥違う?なに言ってるのかなー?呪い掛けたの君だよねー。面白半分であちこち滅茶苦茶にしちゃって、退治されそうになって、癇癪起こして、お子さまに悪さしたんだよねー?」

 そのとおりである。

「んで、そのお子さま庇った麻衣が可愛くなったんじゃん」

 そのとおりである。

「そのどこが、違うって言うのさ。いい加減なこと言うと、掴んで振り回すよ?」

 それは、容赦のよの字も見あたらない脅しだった。

 いや脅しだったら良かった。

 彼は本気だった。

 すぐさま謝罪をし平伏しなければ、本気で、やる。

「‥‥‥カラマッテ‥‥‥トケナイ‥‥‥」

「ふうん?」

「‥‥‥ミナガネガッテイテ‥‥‥トケナイ」

「‥‥‥」

「‥‥‥ボクガ‥‥‥キエテモ‥‥‥トケナイ」

「‥‥‥」

 悪霊は、ぽん、と、手を打った。

 そうして、異様な熱気に包まれた団体を目を凝らして見つめて、ぽぽん、と、さらに手を打った。

「あ、なーるほど。‥‥‥性質悪いなぁ。みんなで無意識に呪いを強化しちゃっているわけなんだ‥‥‥。あー、仕方ないなぁ」

「‥‥‥ホンニンモ」

「え?」

「‥‥‥ソノホウガイイノカト‥‥‥」

 悪霊は、ええ、と、呟いて、優しい優しいお兄ちゃんに戻った。

 そして、そう言われれば分かってしまう淋しそうな哀しそうな視線で、争うお馬鹿さんたちを見つめている少女と、屈み込んで、視線を合わせた。

「‥‥‥麻衣、そんなこと思っちゃったの?」

「?」

 可愛いみに麻衣は、分からないと首を傾げるばかりだ。

 本当にみに麻衣には分からないのだろう。

 けれど、眼差しの奥に、哀しみがあった。

 本当の麻衣の。

 気持ちが。

 奥の奥で。

 哀しそうに問い掛けている。

--------ミンナ、チイサイホウガイイノ?

 そんな酷いことを思わせてしまったのだとようやく気が付いて、ジーンは、胸を痛めた。 

「‥‥ごめんね。すぐに気付いてあげられなくて」

 さらには、ついつい浮かれて、ついでとばかりに変な約束を押し付けてしまったことをジーンは後悔した。こんな時でなければ実現不可能だと思ってしまったからとはいえ、やっぱり、こんな詐欺まがいのことは良くなかった。

 けれど‥‥‥。

 けれど‥‥‥。

 でも‥‥‥。

「‥‥‥お兄ちゃん、哀しいの?‥‥‥まいならだいじょうぶだよ?」

 ジーンは、優しい可愛い子の頭を撫でて、決意した。

 騙すのは良くない。

 でも、こんな優しい子は。

 こんなに可愛い子は。

 やっぱり野放しにしちゃいけない。

 その辺をてくてく歩いているだけで騙されて浚われてしまう。

 だったらその前に、保護しなくちゃいけない。

 がっちりしっかり保護しなくては駄目だ。

 ‥‥‥誰かが聞いたら、それは、詭弁だと叫びそうなことを思いつつ、ジーンは、にっこり笑った。

「‥‥‥麻衣、お兄ちゃんってもう一回呼んで?」

「‥‥‥お兄ちゃん」

「‥‥‥いいねぇ」

 そして、ますます、決意を固くさせた。

 ここに危険人物が居ます。博士なんか構ってないでここに居るのを駆除した方が良いのでは、と、お父さん希望に言いたくなるような光景と言葉だったが、その姿は、本当に、哀しいことに、麻衣にしか見えない。あるいは真砂子になら見えたかもしれないが、本能が拒否しているのか、気付く気配もない。

 そして、ジーンは、すっくっ、と、立ち上がった。口の端に、お兄ちゃんと呼ばれた感動を残しつつ。

 事態を収拾するべく。

 ナルに、こそり、と、囁いた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 こそこそこそこそこそ、と。

 たぶん、聞かない方がいいだろうなーという秘密の呪文を。

 

 

 

 

 

つづく 

                    

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