‥‥‥‥‥‥‥hiru

 

 

 

 昼、珍しいモノを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●●●●noon-sleep

 

 

 

 

 

 

 

 

 クーラーの良く効いた事務所で、居眠りをする谷山麻衣。

 これは、実は、あまり珍しくない。

 特に、ここ最近は、良く見かけていた。

 夏休み前、レポートの嵐に翻弄されるのは学生の宿命であろう。

 しかし、それでも、なお、珍しい、と安原は思う。

 居眠りをする少女は珍しくない。

 だが、居眠りをする少女の肩に掛けられた黒い上着がセットになると、とてもとてもとても‥‥‥珍しい。

 上着の持ち主は、居眠り少女を見つけたら、叩き起こす人だ。

 少なくとも人目がある時は。

 そして、人目が無い時は‥‥‥。

(‥‥‥あ)

 安原は気が付いて、納得して、即座に、資料室に隠れた。

「‥‥‥安原さん?」

「し、静かに。珍しいモノが見られるかもしれません」

「‥‥‥‥‥‥」

 資料室の主は、意図を察して、黙認してくれた。

 有り難いことである。

 そして、待つことしばし、予想通り、所長室から所長が出て来た。

 いつもなら、居眠り少女を、無慈悲に叩き起こす雇用主が。

 しかし、今日は、どうだろう?

 

 

------------ふわり。

 

 

 安原の期待通り、少女の栗色の髪が舞った。

(‥‥‥やはり)

 安原は満足した。

 最近抱えていた疑問が解消されて、すっきりである。

 これで、居眠り少女を見かける回数が減った謎も、少女が所長室から飛び出してくる謎も、解けた。

 しかし、一つだけ、不満がある。

 少女を慎重に抱え上げて、所長室に運ぶ所長‥‥‥という実に楽しい場面を記録しそこねたことだけが、口惜しい。

 だが、機会は、またあるであろう。

 その時の為に、用意をしておかなくては‥‥‥。

「リンさん、頼みがあるんですけど」

「‥‥‥なんですか?」

「ここら辺に、手軽に、すぐに使えるカメラを置いておいて欲しいのですが」

「‥‥‥‥‥‥」

 なんのために、と聞かれるだろうと安原は思っていた。

 もしくは渋い顔をするだろうと。

 だが、資料室の主は、吐息一つで頷いた。

 有り難いのだが‥‥‥。

「‥‥‥いいんですか?」

「結果の見えている戦いには挑みません」

 どうやら、嫌だと言われたら、某最強女史のお力をお借りしようと思っていたことはばればれのようである。

 

 

 

 

 

 

end

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