‥‥‥‥‥‥‥tamago4
新しい息吹は、常に波乱を含み‥‥‥。
闇の目覚め〜天の卵4〜
「ありがとうございました」 ぺこん、と小さな頭が下げられる。 その隣りには、当たり前のように黒い獣が寄り添っている。彼は、非常に剣呑な視線を獣に向けたが、無視された。 「‥‥‥帰るのか」 「うん。なんかね、あーちゃんたちがよんでいるきがするのー」 それは事実である。 森の外、結界近くで、ぎゃあぎゃあわめいている。いずれも彼も知る実力者たちばかりだが、彼の許しなくして扉を開くことはできない。しかし諦めきれずに、あの手この手で扉をこじ開けようとしては、返り討ちにあっている。 「‥‥‥送ってやる。迷うからな」 「ありがとー」 そして、彼は、歩き出した。 一瞬で、入り口にたどり着けるというのに、わざわざ、徒歩で行くつもりらしい。徒歩で行く場合、最低でも、三日は掛かる道のりだということを、無邪気な笑顔の天使は知らない。 そんなことをするぐらいなら引き止めればいいのに、と助言する者は居らず、とりあえず彼らは歩き出した。
‥‥‥‥‥‥が、体力のないお子さまが途中でへばり、彼のささやかな目論見はあっけなく水泡に帰した。かくして、別れの時はあっけなく訪れた。
「じゃあねー」 彼は、あまりにあっさりと背を向けた天使の翼を、掴んでいた。 痛くないように手加減して、ではあるが。 「‥‥‥なあに?」 きょとん、と見返す生き物は、あまりに小さい。 望めば手に入らぬものなどなにもないが、泣かせたいわけではない。 「‥‥‥また、来い」 「‥‥‥‥‥‥」 「もう少し、大きくなったら‥‥‥ここに、来い」 鳶色の眼差しを瞬いて、天使は、うん、と頷いた。 「やくそくー」 「ああ、約束だ」 満面の笑みにほだされて、彼は、手を離した。 彼は、知らなかったのだ。 実は、小さな天使が、とうの昔に成体になっていてもおかしくない年齢だということを。 外でわめく保護者たちは、天使が、なんの為に、誰の為に、この世に生を受けたか知っている。だが、育てている内に、すっかり情が移り、いつまでも小さいままでいておくれー、などと言い聞かせたせいで、雛のままなのである。 「じゃあねーありがとー」 ご機嫌で帰っていく小さな生き物を見送った彼が、姑息な策略を知るのは、もうしばらくのちのことである‥‥‥。
そして、闇の君と天使の邂逅は、終わりを迎えた。これから続く、新しい日々の予感を残して‥‥‥‥‥‥。
「ねえねえ、あのひと、さみしいのかなぁ‥‥‥ひとりだもんねぇ」 保護者たちが待ち詫びる扉へと向かいながら、天使はお供に尋ねる。 「いつでもおおきくなれるから、いつでもあそびにいっていいかなぁ?」 お供は、一声鳴いた。 「うん、そうしよう。そのときはいっしょにいこうねー」 お供は、また、一声鳴いた。 当然だ、とでも言うように‥‥‥。
end
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