ヒトガタ

 

 

 

 

 

「‥‥‥あっ、あっ、あっ」

 

 甘いと感じる声を響き渡らせながら、しなやかな体が、反り返る。

 

 狭すぎず緩すぎず、最高の締め付け具合を味わいながら、カカシは、彼の為だけに用意された体を、貫き、揺さぶる。

 

--------愚かなことだ。

 

「‥‥‥ひっ‥‥‥あっ、あっ‥‥‥ああんっっ」

 

 甘い声と暖かい体に溺れながらも、カカシの脳裏では、冷ややかな声が響いていた。忘れることもできずに、すべてを、認識していた。

 

--------愚かなことだ。

 

 カカシは、将来を嘱望された、科学者だ。

 

 うなるほどの金と、名誉、そして、人並み以上の好奇心を持っていた。

 

 そして、運が良いのか悪いのか、自分の思い付きを形にするだけの能力も、持っていた。

 

 彼が、くだらないことを思いついたのは、三年前のことだ。

 

 限りなく人型に近い人形は、すでに、あちこちで見掛ける程度の代物だ。

 

 だが、それらは作られた人形であるからこそ、人ではあり得ない能力や、美しさを持っていた。当然ではある。あちこちで見掛けるとは言っても、最高級の人形は、けた違いに高い。一流の科学者であるカカシだからこそたまに見掛けるだけで、本来なら、隠され隠されていて、滅多に人目に触れる代物ではなかった。だからこそ、その金額に見合うだけの能力や付加価値が要求されるのは、当然と言うよりは必然であった。

 

 だが、だからこそ、カカシは思った。

 

 より人らしく。

 

 より平凡な。

 

 そんな人形を作ってみようかと。

 

 あくまでも、どこまでも、人らしい愚かな人形を。

 

 カカシは、すぐさま、制作に取り掛かった。

 

 丁度良く、大きなプロジェクトが終わったばかりで、時間もあった。

 

 作り上げるのに、さほど、時間は掛からなかった。

 

 そうして、仕上がったのが、イルカ。

 

 いま、カカシが抱いている、女形の人形である。

 

「‥‥‥あっ、あっ、あっ」

 

 カカシは、イルカに、平凡な容姿を与えた。

 

 可愛いと言え無くもないが美しくはない。

 

 体型も、平均的な物だ。

 

 カカシの好みを少し反映させて、胸は大きくさせたが、特徴と言えばそれだけの‥‥‥ごくごく普通の体である。

 

 だが、その体は、カカシを狂わせた。

 

 いや、イルカのすべてが、カカシを狂わせたと言うべきか。

 

「‥‥‥あっ‥‥‥いやっ‥‥‥カカシ‥‥‥さん‥‥‥ああっっ!」

 

 イルカの能力も平均値だ。

 

 なにも特出する所はない。

 

 ただ、頭の悪い奴と話しをするのが嫌で、知能は少し高めにしておいた。

 

 だが、それも、大したことではない。

 

 なのに。

 

『カカシさん』

 

 名前を呼ばれて微笑まれるだけで、獣のように押し倒してしまう。

 

 貪るように抱いてしまう。

 

 なにもかもが。

 

 なにもかもが無意味だと分かっているのに。

 

 なにもかもが。

 

 なにもかもが。

 

 カカシ自身がプログラムしたことだと言うのに。

 

「‥‥‥ひっ‥‥‥あっ‥‥‥あああっっっ!」

 

 根付くことのできない精子を、イルカの中に叩き込んで、カカシは、自らの愚かさを嗤う。これは、自慰に等しい。愚かな行為だ。そう分かっているのにやめられず止められない自分が、愚かで、情けなくて、仕方ない。

 

「‥‥‥‥‥‥カカシさん?」

 

 いっそ壊してしまおうかと思うこともある。

 

 思い詰めて、イルカの顔に、酷い傷をつけてしまったことも。

 

 だが、結局は、イルカが壊れた、その時、自分がどうなってしまうのか分からなくて、実行に移すことがどうしてもできなかった。

 

「‥‥‥‥‥‥どうしたの?」

 

 心配そうに尋ねる声も、心配そうにしている表情も、すべてが、偽りだと分かっているのに。どうしても、失えない。

 

「‥‥‥好きだよ、イルカ」

 

「‥‥‥私も」

 

 どうしても。

 

 どうしても。

 

--------愚かなことだ。

 

 そう分かっているのに。

 

「‥‥‥愛しているよ」

 

「‥‥‥私も、愛しています」

 

 流れる涙を、すりよる暖かさを、愛しく思うことを、どうしても、止められなかった。

 

 

 

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