視る
いつもいつも濁流のような勢いに流されて、逃げられず、毎回、あんあん喘がされているが、イルカにだとて、性欲はあるし、したいという欲求も、勿論、ある。ただ、それは、いつもいつもどうしてそんなに元気なのか、と、不思議に思う銀髪上忍と比べると、うんと、薄いことは確かである。上忍の性欲に付き合わされて疲れている所為もあるだろうが。 まあ、そんなことは、いまは、どうでも良いことである。 いま、肝心なのは、そのいつもは薄い欲求が、いまは、高まっているということだ。簡単に言えば、イルカは、やりたかった。けれど、いつもなら隙が有ればのしかかってくる銀髪上忍は、今日、新しく出たばかりのいちゃぱらの新刊に夢中で、こっちを見もしない。 ごろごろと寝転がりながら本を読む上忍を横目に、イルカは、軽く吐息を吐き出した。そして、どうしようかな、と、考えた。 ものすごくしたいけれど、どうしたらよいのか、イルカには、経験がなかった。 だから、どうやって誘えばよいのか、どうやって乗せればよいのか、全然分からない。そして、分からないことに、少し、驚いていて、余計に、混乱して、分からなくなっていた。 (‥‥‥うーん、そういえば、自分からって‥‥‥無いような‥‥‥) 短くはない年月一緒に居る。そして、たぶん、たくさんしている。 だが、どれだけ記憶を漁っても、イルカから誘ったことは、無いようだった。 なんだか、ひどく、負けた気分になる。 イルカだとてカカシが好きなのに、それをちゃんと示していないような気がした。 (‥‥‥いやいやいやいや、いつもいつも隙が有れば、押し倒してくるから、それは、仕方ないことなんじゃ‥‥‥) うーん、と、悩みつつ、イルカはカカシをちらりと見る。 銀髪腕利き上忍は、にまにましながら、寝転がってエロ本を読んでいる。相変わらず、エロ本に夢中で、イルカの視線に気が付かない。 (‥‥‥うーん?) どうしようかなー、と、思いつつ、イルカはカカシを観察した。 そして、ふと、そういえば、こんなにゆっくり一方的に観察できる機会はなかなか無いかも、と、気が付いた。ならば、エロ本を読み終わるまでは我慢して、観察した方がお得かもしれなかった。 イルカだとてカカシが好きなのだ。 好きな人をじっくり見つめたい、と、いう、欲求はある。 ただし、物陰からストーカーする気持ちはちっとも分からないが。 (‥‥‥でも、いつもいつもストーカーする気持ちの元って、同じなのかな) イルカは、ぼんやりとそんなことを考えながら、伸びきっている恋人を見つめる。伸びきっているが、身体は、鑑賞に値するほど、しなやかで、逞しい。細く見えるが、イルカなどより遙かに引き締まっていて強靱な肉体をしていることを、イルカは、良く知っている。それと、ぼさぼさに見える銀髪は、実は、手触りが最高なことも、イルカは知っている。ちょっと手入れをすると、きらきらすることも。 (‥‥‥あ、ちょっと、触りたいかも) あと、顔も、勿論、鑑賞に値する。いつもは覆面をしているが、勿論、いまは、していない。だから、整った顔が、さらけ出されている。にまにましているが、それでも、十二分に男前だった。 (‥‥‥やっぱ、格好いいよなぁ) 初めてカカシの素顔を見た時の衝撃なんかも思い出しつつ、イルカは、じーっっっと見つめる。あれこれ思い出しながらなので、結構、楽しかった。だが、問題があった。元々したくて仕方なかったのに、見ていたら、もっと、したくなったのだ。だが、楽しみにしている読書の邪魔をするのは‥‥‥。 『イルカ先生〜。構って〜』 持ち帰りの仕事をしていようと、受付に座っていようと、まったく関係無しに、構えと要求しまくられていることを思い出して、イルカは、カカシににじり寄った。 いつもいつも仕事の邪魔をされているのだ。 少しぐらいは許されるはずだ、と、イルカは自らを励ます。 そして、いま、もっとも触りたい、ふわふわ銀髪に手を伸ばし‥‥‥。 「‥‥‥本、読んでていいですから、触らせてくださいね〜」 一瞬、動き掛けたカカシを制して、イルカはカカシの頭を撫でることに成功した。そして、ふわふわ具合をたっぷりと堪能した。 「‥‥‥相変わらず、ふわふわですね〜」 「‥‥‥そう来ますか」 「本、読んでて下さいね。俺は、ふわふわを堪能したいんです」 「‥‥‥期待してたのに‥‥‥」 「それは後で」 「後なんですか。後からあるんですか‥‥‥」 「ふわふわを堪能するのが先です」 「‥‥‥はいはい。じゃあ、たっぷり堪能してください。我慢します。その代わり、次は、俺が、イルカ先生を堪能します」 「‥‥‥」 イルカは、しばし、考えた。いつもならここで、ぎゃー、とか、言うところだ。 まだ陽は高いし、いろいろと用事も溜まっている。 でも、たまには、いいか、と、イルカは頷いた。 「分かりました」 「‥‥‥へ?」 「じゃあ、もうちょっと堪能させてくださいね」 もふもふふわふわな頭が、ぐるりと後ろを向いた。 「‥‥‥い、イルカ先生?」 「もうちょっと」 「‥‥‥いや、あのね、そんなこと言われたら、我慢が」 「もうちょっと。前向いてください。本を読んでて下さい」 「‥‥‥ううう、結局、生殺しなんですね。視姦してくれているのかと期待したのにー」 頭の沸いていることを言う銀髪上忍の頭を撫でながら、イルカは、そうかもしれないな、とも、思った。ずっと見つめて、抱かれたことばかり思い出していたから、やらしいこともたくさん思い出していたから‥‥‥。 「多分、視姦してましたよ。いっぱいやらしいことを考えてました。なんか今日は、すごく、したくて、どうやって誘えばいいのかなぁと困ってました」 「‥‥‥っっっ!」 「でも、いまは、ふわふわが重要です。動かないでください。こっち向かないでください」 「‥‥‥なま、なまごろしーっっっっっ!」 びくびくと震えて叫ぶ男が、可愛いな、と、イルカは思う。 そして、これからのことを考えて、背筋をぞくぞくさせながら、誘うことに成功したことに、満足していた。
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