啼く夜

 

 

 

 

 

 祝福されて嬉しいはずの夜、イルカは、怯えていた。

--------誕生日。

 それは、幼い頃は嬉しく、両親を喪ってからは寂しさを感じるものだった。

 そして、両親を喪った辛さをなんとか誤魔化せるようになってからは、友人や生徒たちに祝いの言葉を貰う、いつもよりささやかに楽しい日だった。

 けれど、いまのイルカにとって、誕生日は、恐怖そのものだった。

 正確には二年前の誕生日からは。

(‥‥‥でも、もしかしたら、今年は、忘れているかもしれない)

 どうか忘れていてくれと願いつつ、イルカはそんなことを思った。どうしてかイルカに執着しきっている男が、わけの分からない理論を振り回してイルカを支配する男が、イルカに飽きてくれることを。

(‥‥‥もうすぐ十二時だし‥‥‥もしかしたら)

 無駄だと思いつつ、イルカは、仄かに期待した。

 そして、祈るような気持ちで、壁に掛けられた時計を見上げて‥‥‥。

「おめでとう」

 いつのまにか、すぐ側に居た男を、見つけた。

「誕生日おめでとう。プレゼントは、俺。火影な俺だよ」

 男は、闇夜によく似合う底知れぬ恐ろしい気配を漂わせていた。そして、酷薄な笑みを浮かべて、イルカには、良く分からないことを言った。

 いや、正確には、理解したくないことを。

「あんたは、ほんと、幸運だね。他には、なにが、欲しい?」

 不用意なことを言えば酷い目に合うことを、イルカは、良く知っていた。

 特に、誕生日には、気を付けなくてはいけないことを、骨の髄まで、教え込まれていた。

『おめでとう』

 二年前、男は、祝いの言葉を述べながら、イルカを蹂躙した。

 抵抗するイルカを押さえ込み、徹底的に犯した。そして、それから一月、イルカがなにもかもを諦めて受け入れるまで監禁して、嬲り続けた。

 そして、去年も、祝いの言葉を述べながら、理不尽な理由で、イルカを蹂躙した。嫌だとどれだけ叫んでも逃れることもできず、沼底に叩き落とされるような快楽を教え込まれた。

 だから、イルカは、男が、恐ろしく、誕生日が、恐ろしく、なにも、言えなかった。なにを言っても、どうせ同じだと思っていても、理性と諦めは、恐怖を払拭することはできなかった。

「‥‥‥なにも要らないの?欲がないねぇ」

「‥‥‥」

「まあ、そういう所もあんたらしいけどねぇ」

 男は、イルカの無言を笑って流して、当たり前みたいに手を伸ばして、イルカを掴まえた。そして、にたり、と、恐ろしい笑みを深くした。

「とりあえず、今日は、お祝いに、酷くしてあげる。あんた、ちょっと痛い方が、気持ちいいみたいだから。とびきりの薬も、用意してあげたからね」

 恐怖に硬直するイルカの身体を、男は、弄り始めた。

 浴衣の合わせ目から手を差し入れ、乳首を押し潰し、項垂れている性器を、擦り上げた。

「よい子だねぇ。ちゃんと言い付け通り、下着、付けてないねぇ。弄りやすくて、やらしくて、いいねぇ。お利口で、可愛いから、玩具も一杯入れてあげる」

 そんなことは何一つイルカは望んでは居なかった。

 けれど、やはり、口答え一つしなかった。

 口答えする勇気など、遙か昔に、押し潰されてしまっていた。

(‥‥‥ああ)

 嫌なのに、本当に嫌なのに、弄られて熱くなる自分の身体に絶望しながら、イルカは、目を閉じた。そして、目の端をちらちらと掠る、男が身に纏っている、赤い焔を模した模様が描かれたマントが、見間違えであることを願った。

 けれど、願いつつも、イルカは、本当は、分かっていた。

 聞いた時は理解できなかった男の言葉を、頭の中で繰り返して、理解して、絶望していた。

『誕生日おめでとう。プレゼントは、俺。火影な俺だよ』

 そんな馬鹿な、そんな馬鹿な、と、繰り返しつつも、男の実力ならば、十二分にあり得ることだと、これで、もう、誰も、本当に、止められない、と。

「まずは、一発、抜かせてね」

 絶望するイルカを立たせたまま、男は、イルカの後ろに指をねじ込んだ。

 ねっとりとした液体を纏った男の長い指は、いともたやすくイルカの内側へと、入り込んだ。

「‥‥‥あ、んっっ、んんっっ」

「ほんと、最初は、いつまでも、きついね。昨日も、散々、広げてあげたのに」

 男に馴らされたイルカの後ろは、男の指をくわえ込んで、快楽だけを感じた。

 そして、もっと、もっと、太くて熱いのが欲しい、と、きゅうきゅうと締め付けて催促した。

「‥‥‥あー‥‥‥気持ちいい」

 指を抜くと、男は、イルカの身体を反転させて、壁に縋らせた格好にして、ずぶずぶと後ろから、遠慮の欠片もなく、犯した。

「ん‥‥‥んんんっっ」

 身体が欲していた太くて熱いモノを与えられて、イルカの身体は、イルカの心を置き去りにして、背筋をぞくぞくさせた。

「ほんと、あんたの中は、気持ちいい。ずっと、射れてたい」

「‥‥‥んっ‥‥‥ああんっっ」

 ぐりぐりと奧を突かれて、尻の皮膚で、男の陰毛を感じて、イルカは、啼いた。

 甘ったるい快楽に溺れた声を、イルカは嫌だと思った。

 けれど、声は、喉の奥から、勝手に、出て来た。

「‥‥‥あっ‥‥‥あっ‥‥‥」

 そして、イルカの身体は、イルカの意志を欠片も振り返ることをせず、一気に、激しく燃え上がった。そのいつもとは違う不自然な熱の上がり方に、イルカは、塗られたモノが、いつもとは違うモノであったことを知った。

(‥‥‥どうせ‥‥‥)

 ぐちゃぐちゃねちねちという淫猥な音を聞きながら、イルカは、投げやりに、心中で呟いていた。

(‥‥‥どうせ、逆らっても‥‥‥無駄だ。ならば‥‥‥)

「ほら、気持ちいいって、啼いて」

「‥‥‥あっ‥‥‥ああんっっ」

「良い声。でも、そうじゃないでしょ、ほら、気持ちいいって言わないと」

「‥‥‥もち‥‥‥きもち‥‥‥いいっっ」

 身体の熱さに耐えかねて、イルカは、理性を自ら手放した。

 そして、このまま狂ってしまえば楽だろうな、と、思いながら、前を弄られずに、奧を突かれただけで達して、快楽の証を、吐き出した。

 

 

     ※

 

 

 可愛い生き物が生まれた日を、カカシは、祝いたいと思っていた。けれど、どうしてか、いつも、それは、うまくいかなかった。

 可愛い生き物が怯えていると分かっているのに、誕生日には、いつも、いつもより酷いことをしてしまっていた。

 そして、また、今年も、カカシは、祝うことができずにいた。

 怯える可愛い生き物を、縛り上げて、どろどろにとろけてしまうまで突き上げて精液を注いでやった可愛い後ろの口に、可愛い生き物があまり好きではないと分かっている玩具を、ねじ込んでいた。

「‥‥‥ひっ、あっ‥‥‥いやぁっっ」

 両手首を一つにされ、両足を広げた格好で固定された可愛い生き物は、逃げることもできず、イルカ型の玩具に犯されて、鳴いた。

 ヴヴヴヴ、と、玩具が音を立てる度に、びくびくと震えて、涙を零した。

(‥‥‥可哀想に)

 カカシは、素直に、イルカが可哀想だと思っていた。

 けれど、止めてやることは、どうしても、なぜか、できなかった。

 大切にしろ、粗末にするな、苛めるな、泣かせるな、と、周りには口うるさく言われているし、カカシ自身も、大切にしたいと思っているのに。

『イルカ先生、おめでとうだってばよ!』

 イルカにとっては元生徒、自分にとっては元教え子のように、祝いの言葉を告げてたわいのないプレゼントを渡して喜ばせてやりたいのに、どうしても、できない。

 その他の、イルカの周囲に居る数多の者たちでさえ、そんなことは、当たり前に、簡単にできるのに、この里で最も優れているはずなのに、どうしても、どうしても、どうしても、できなかった。

「‥‥‥あんたは、俺のモノだよ」

 出来ることと言えば、縛り上げて犯すぐらいで。

 恐怖に震えさせて、動けないようにするぐらいで。

 もう助けてと泣き叫ぶほどの快楽の底に叩き落とすことぐらいで。

 そんな自分が、カカシは、嫌だった。

 けれど、どうしたら、いいのか、カカシには、分からなかった。

 可愛い生き物の前では、優秀なはずの脳味噌は、がらくたで、何一つ、まともな案さえ、出せなくて、いつだって、空回りしていて。

「‥‥‥あんたは、俺のモノだ」

 だが、少し切ないけれど、それでも、カカシは、幸せだった。

 欲しくて欲しくて欲しくて焦がれて焦がれていた可愛い生き物が、いま、側にいて、鳴きながら、カカシを受け入れているから。

 嫌われて憎まれていても、それでも、幸せだった。 

 

     

 

 

 

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