犬日和
その日、木の葉任務受付所は、平和だった。 ぷち金色小型台風が飛び込むまでは。 「‥‥‥あれえ、猫なんてやっぱり居ないってばよ」 ぷち金色小型人型台風がぼやくまでは。 「なあなあ、イルカ先生、ここに猫って良く来るのかってばよ」 「‥‥‥‥‥‥」 小型台風は人型をしていたが無頓着で豪快だった。 ある意味大物と言え無くもないが、見守っていた者たちは、思う。 --------頼むから、元担任の顔色の悪さぐらい気が付いてやってくれ、と。 だが、ぷち小型台風はやっぱり台風で。 無意識にざくざく凄い勢いで、周囲の嘆願をものともせず、我が道を進み、元担任の神経を削ぎ落とした。 「任務先で、変な噂を聞いたんだってばよ。受付所に、すんげえ可愛い子猫が居るって。みんなめろめろで、特にカカシ先生がらぶらぶなんだってば」 「‥‥‥」 「でも変だってばよ。カカシ先生、猫より犬が好きだって、昔、威張ってたってば。変だってば」 突っ込む所はそこなのか。 気になるのはそこだけなのか。 それはあまりにも豪快過ぎないだろうか。 --------と、その場に居合わせた者たちは思った。 忍として、いや、人として、もっと他に突っ込む所があるではないだろうか、とも。だが、誰も、なにも、言わなかった。いや、言えなかった。 「‥‥‥ね、ね、ね、ねねねねねねね、猫なんて、ここには居ないぞ」 哀れなほどに動揺しまくっている、変態上忍に振り回されている哀れな犠牲者を前にして、真実を語れる者など居るはずがなかった。 当事者である銀髪里の誇り上忍や、協力者もどきの女傑が居たならば、なにかの動きはあったかもしれない。 だが、多分、幸いなことに、上忍と火影は、本日、その場に、居なかった。 よって。 「‥‥‥ふーん。やっぱり、噂は噂だってばよ。つまんねー」 小型人型台風が真実を知ることはなかった。 少なくとも、その場では。 だが、ずっと、ごまかせるだろうか。 口を尖らせる元生徒の成長を喜びつつも恐れて、元担任は、思った。 --------否。 落ちこぼれなんて言われていたのが嘘のように、金色小僧は成長している。 すぐに、ちゃちな幻術なんて見破れるようになるだろう。 そうしたら‥‥‥。 そうしたら‥‥‥。 なぜか、未だに、自分の頭に生えているモノをををををを。 「‥‥‥イルカ先生、顔色悪いってばよ。働き過ぎは駄目だってばよ」 「だだだだだだだ、大丈夫だ、うん」 「ばあちゃんにこき使われてるってばよ?」 「そ、そそそそ、そんなことはないぞ」 心配してくれる優しい元悪戯小僧に、情けない姿を見付かる時を想像して、元担任は、心中で絶叫した。 --------絶対に、いやだっっっっっっっ! それは、始まりの合図だった。 流され癒し猫の。 初めての反撃の。
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