彼は、高みへと登り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 好きな人が居た。

 誰よりも好きな人が。

 側に居ると幸せで幸せで幸せすぎて、時折、泣きたくなるほどに好きな人が。

 だから、告白されて、嬉しかった。

 けれど、分かっていた。

 これは、いまだけ許される幸せだと。

 いつかは、消え失せる幸せだと。

 そう分かっていて、受け入れた。

 その時は、潔く、身を引く覚悟はいつだって出来ていた。

 彼は、里の、宝。

 自分一人が、一人占めできる人じゃない。

 そう、分かっていた。

 理解していた。

 だから‥‥‥。

「‥‥‥んー。なに、余所事考えているの?余裕だねぇ」

 だから、これは、なにかの間違いだ。

 だって、別れたのに。

 彼が、五代目の後を継いで、最後の高みへと登り詰めると、上層部の人に、聞いたから、邪魔にならないように、と、その場で、長期任務を願い出た。

 最低でも、三年は帰って来れないはずだった。

 下手したら、一生。

 なのに、どうして、自分は。

 ここに?

 こんな格好で?

--------これは、間違っている。

「ふふ、正気に戻って来たみたいだね。でも、おそーいよ。もう、手遅れ」

 周囲を必死に探れば、そこが、里の最高権力者の部屋だと分かる。

 数えられないぐらい通った部屋だ。

 書類を届けたり、至急の用件を伝えに来たり‥‥‥。

 つまり、そこは、そういう場所で。

 仕事の。

 公共の。

 場で。

 なのに、そこで、自分は、彼は、なにを、している。

--------ぐちゅ。

--------じゅばっ。

 水音が、響く。

 粘ついた音が。

「あんたはねぇ、売られたの。俺がねぇ、つつがなく、執務を行う為の気晴らしになぶる為の、奴隷として、里に、売られたの。あんたの役目はね、俺が気が向いた時に、こうやって、足を広げて、後ろの口をさらけ出すことになったんだよ」

 なにを言われているのか分からなかった。

 理解できなかった。

--------ぐぢゅ。

--------ぐじゅっっ。

 いや、理解したくなかった。

 そんなこと、と、思いたい。

 けれど、見下ろす彼の眼差しは冷え冷えとしていて、嘘偽りなどではないと語っていた。

「こーんな、変な、笠一つ、俺の頭に乗せる為に、里は、簡単に、あんたを売るんだよ。そんなことにも気が付かなかったの?馬鹿だねぇ」

 変な笠、と、彼が笑うのは、かつて、三代目が被っていた笠と良く似ていた。

 けれど、形が微妙に違って、色が‥‥‥。

「‥‥‥くろ‥‥‥い?」

「それが俺の色だもの。本当は、こんなの被りたくないけど、被って欲しいみたいだから、妥協してあげたの。似合う?」

 僅かに首を傾げて、問い掛けるのは、誰よりも愛した人。

 けれど、いまは、遥かに、遠い人。

 近付いてはいけない人だ。

 その笠が。

 似合う人だから。

 だから‥‥‥。

「‥‥‥はな‥‥‥し‥‥‥て‥‥‥」

「馬鹿だね」

 ぐっ、と、両足が、さらに、開かれた。

 筋が軋むほどに、大きく。

「あんた、自分が、いま、どんな格好しているか、ちゃんと理解してる?現状を把握するのは、忍として、当たり前のことでしょう?目を逸らすなんて許さないよ」

--------ぐぢゅ。

--------ぐぢゃ。

 また、水音が、した。

 下から。

 下肢から。

 後ろから。

「あんたはね、いま、火影が使用する卓の上で、丸裸で、足を開いて、恥ずかしい所にいっぱい注がれた精液を、俺の指でいじられながら、垂れ流してるの。さっきまで、あんあんよがってて、後ろのお口に射れてって叫んでたの。それがね、これからの、あんたの役目なの。‥‥‥分からないなら、分からせてあげようか?あんたの知り合い全員呼び付けて目の前で、犯してあげようか?誰も、文句なんか付けないよ。だって、ねえ、俺、火影だもん」

--------ぐぢゅ。

--------ぐじゃ。

「ほら、言いなよ。後ろの淫乱なお口にもっと一杯精液注いでって、おねだりしなよ。‥‥‥さっきみたいに」

 冷たい眼差しを見返しながら、イルカは、呆然としていた。

 先ほどからのすべてが、夢だと、思いたかった。

 けれど。

 長年。

 側に居た。

 だから、彼が、本気だと、分かってしまう。

 なにもかもが本当だと、理解してしまう。

 それに、思い出した。

 イルカは、確かに、長期任務に出ていた。

 三ヶ月ほどをあちらで過ごしていた。

 遠い辺境の、けれど、温暖な気候の、争い毎の少ない土地で。

 胸を苛む痛みに耐えながら。

 暮らしていた。

 なのに、突然‥‥‥。

 そう、突然、目の前に、影が。

 白い仮面を被った黒い影、暗部が現れて。

 拘束されて。

 なにかの薬を飲まされて。

 気を失った。

--------暗部が動いたと言うことは。

 火影が命じたということ。

 では、イルカを呼び戻したのは、間違いなく、彼で。

 あの、甘い薬を飲ませたのも、彼なのだ。

--------地獄のようだった。

 運ばれている途中、イルカは、時折、意識を取り戻した。

 ぐるぐる巻きにされていた。

 ひどく暑かった。

 体が、燃え上がるように。

 間違いなく、イルカは、発情していた。

 発情しつづけて、苦しくて、狂いそうだった。

--------その、すべてが。

 なにもかもが。

 彼が。

 命じたことなのだ。

--------嘘だ。

 優しい人だった。

 誰よりも強くて綺麗で潔くて、優しい人だった。

 柔らかな笑顔を浮かべて、穏やかな眼差しで見つめてくれる人だった。

 こんな。

 こんな。

 こんな。

 なにかに取り憑かれたようないびつな笑顔を浮かべる人じゃなかった。

 けれど、偽物じゃない。

 確かに、彼は、彼で。

「‥‥‥また、余所事考えてるね。可愛くないなあ。薬、あんまり飲ませると、やばいけど‥‥‥別に、狂っても、構わないし、飲ませようかな。狂った方が素直で可愛いだろうしなぁ。うーん。どうしよう‥‥‥ま、とりあえず、突っ込むよ」

「‥‥‥っっっっっ!」

「あーキモチイイ。ほら、もっと、締めて」

 ぺしり、と、剥きだしの尻を叩かれて、イルカはびくりと震えた。そして、身の内に、熱い塊を受け入れて、さらに、びくびく震えた。

「‥‥‥いっ‥‥‥あっ‥‥‥やめ‥‥‥」

 受け入れた途端、あの、熱さが、甦った。

 気が狂うほどの。

 あの。

 熱さが。

「‥‥‥やめ‥て‥‥‥くるし‥‥‥かか‥‥‥し‥‥さ」

 イルカは、手を伸ばした。

 優しくて愛しくてだからこそ離れた最愛の人に。

 助けを求めて。

 けれど、答えは、笑み。

 見たことのない歪んだ凶々しい笑みだった。

「だーめ。あんたに拒否権はあげないよ。何回も言うのは面倒だから、さっさと覚えてよ。あんたの役目はね、俺がその気になったら、足を開いて、後ろのお口に俺を射れることなの。‥‥‥それがね、里の意志。火影命令なんだよ」

「‥‥‥ひっ‥‥‥あっ‥‥‥」

 冷たい抑揚のない声を聞きながら、イルカは、熱さに、理性が食い荒らされていくのを感じた。そして、同時に、なにもかもが夢であることを願った。

 性質の悪い、悪夢だと。

 こんなことあり得ないと。

 目覚めたら‥‥‥。

 きっと、あの、里から遠く離れた、小さな、穏やかな国に居るのだと。

 信じた。

 信じたかった。

 けれど、もう、いまは、なにもかもがどうでも良くて。

 熱くて。

「‥‥‥あっ‥‥‥ああんっっっ、やっ、ああっ!あっ、やめ‥‥‥ないでぇ!」

「やっと、素直になったねぇ」

 懐かしくて。

 幸せで。

 夢でも。

 狂っていても。

 なんでもいいから。

「‥‥‥ほら、イルカ、なんて言うの?」

「い‥‥‥いるか‥‥‥の‥‥‥いやらしい‥‥‥う、うしろのおくちに、か、かしさんの‥‥‥あつくて‥‥‥おっきいの‥‥‥いれて‥‥‥」

 抱き締めて。

「射れるだけ?」

「‥‥こ‥‥‥すってぇ‥‥‥いっぱい‥‥そそいでぇ」

 離さないで。

「了解」

 欲しかった。

 

 

 

 それが、とほうもない罪だと分かっていても。

 いまは。

 いまだけは。

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

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